山口県南東部にある島の住民3人は、四国電力に対して、伊方原発3号機を運転しないよう求める仮処分を申し立てましたが、去年3月、山口地方裁判所岩国支部が退けたことから、広島高等裁判所に即時抗告していました。
これまでの審理では、伊方原発からどれだけの距離に地震を引き起こす活断層があるかや、およそ130キロ離れた熊本県の阿蘇山で巨大噴火が起きた場合の影響などが争われました。
広島高裁は、去年の山口地裁岩国支部の決定を取り消し、運転を認めない決定を出しました。
決定の中で森一岳裁判長は、伊方原発の敷地の近くに活断層がある可能性を否定できないとしたうえで、「断層から原発までの距離は2キロ以内と認められるが、四国電力は十分な調査をせず、原子力規制委員会が問題ないと判断した過程には、誤りや欠落があったと言わざるをえない」と指摘しました。
また、火山の噴火については、国の新しい規制基準が噴火の時期や程度を相当前の時点で予測できることを前提としているのは不合理だと指摘したうえで、阿蘇山の噴火による影響が過小評価されているという判断を示しました。
伊方原発3号機をめぐっては、平成29年、広島高裁が運転しないよう命じる仮処分の決定を出しましたが、およそ1年後、広島高裁の別の裁判長がこの決定を取り消し、運転を認めました。
先月からは、定期検査のため運転を停止中ですが、仮処分は直ちに効力が生じるため、検査が終了する4月以降も運転できない状態が続く見通しになりました。
四国電力は、17日の決定の取り消しを求めて異議を申し立てる方針で、申し立てがあった場合、広島高裁の別の裁判長が改めて判断する見通しです。
四国電力 原子力部「速やかに異議申し立ての手続き行う」
四国電力原子力部の佐川憲司副部長は「最新の科学的知見も踏まえながら、地震や火山などへの安全性について、裁判所に丁寧に立証を行ってきた。今回このような決定が出されたことは極めて遺憾で、到底承服できない。1日も早く運転が再開できるよう速やかに異議申し立ての手続きを行いたい」と述べました。
伊方町長「安全で安定的な運転に影響を与えないか危惧」
愛媛県伊方町の高門清彦町長は「司法判断であり事実として受け入れるよりほかはない。ただ、司法判断によって予定外の停止や運転が繰り返されることになり、これが安全で安定的な運転に影響を与えないか危惧する」というコメントを出しました。
電事連会長「極めて残念」
大手電力会社でつくる電気事業連合会の勝野哲会長は、17日の記者会見で「極めて残念だと考えている。国民の負担の軽減や、温暖化対策など多くの課題に対して原子力の果たす役割は大きいと考えている。国の方針にもとづいて安全性について立地地域などにしっかりと説明することで理解を得ていきたい」と述べました。
原子力規制庁「新規制基準は合理的」
原子力規制庁の児嶋洋平総務課長は「直接コメントする立場にはないが、原発の新しい規制基準は最新の科学的、技術的な知見にもとづいた合理的なものだ。したがって適切な審査を行っているし、今後も厳格な審査を行っていく」と話しています。
伊方原発3号機 過去に一度 仮処分で停止
伊方原発3号機は、5年前に新たな規制基準の審査に合格し、平成28年8月に再稼働しました。
しかし、定期検査中の平成29年、広島高等裁判所が運転差し止めを命じる仮処分を決定し、その後、運転ができない状態が続きました。
そして、よくとしの平成30年9月、別の裁判長が決定を取り消したことを受けて、運転を再開しました。
四国電力によりますと、伊方原発3号機の運転ができなかったことで、代わりとなる火力発電所を運転させるための燃料費が必要になり、1か月、およそ35億円の損失が出たということで、再び運転の停止が長引けば、経営への影響は避けられないとみられています。
運転停止の仮処分決定 2例目
福島第一原発の事故のあと、裁判所が原発の運転停止を命じる仮処分を決定したのは今回で4例目で、伊方原発では2例目です。
高浜原発 3号機と4号機
このうち福井県にある高浜原発3号機と4号機では、平成27年4月と平成28年3月に2度、運転停止の仮処分が出されました。
具体的には、平成27年4月には、福井地方裁判所が再稼働しないよう命じる仮処分を決定し、再稼働ができない状態となりました。
その後、福井地裁の別の裁判長が平成27年12月、仮処分の決定を取り消したことから、関西電力は、翌月の平成28年1月に3号機を再稼働させました。
続いて4号機は、翌2月に再稼働させましたが、すぐにトラブルで停止しました。
平成28年3月には、大津地方裁判所が高浜原発3号機と4号機の運転停止を命じる仮処分を決定したため、運転中だった3号機は、決定の翌日、原子炉を停止しました。
これは、司法の判断で運転中の原発が停止した初めてのケースとなりました。
この仮処分の決定は、1年後の平成29年3月に大阪高等裁判所が取り消したことで、高浜原発3号機と4号機は再び運転を始めました。
伊方原発3号機の場合
四国電力の伊方原発3号機は、定期検査のため運転を停止していた平成29年12月、広島高等裁判所が期限つきで運転しないよう命じる仮処分の決定を出し、再稼働ができなくなりました。
しかし、平成30年9月には、広島高裁の別の裁判長が決定を取り消して運転を認めたため、翌10月、およそ1年ぶりに原子炉を起動し再稼働しました。
そして、17日、広島高裁は、再び運転を認めない仮処分の決定を出しました。
これを受けて、伊方原発3号機は、現在行っている定期検査が終了する、ことし4月以降も運転ができない状態が続く見通しとなりました。
全国の原発の状況
国内には、廃炉が決まった原発を除くと、15原発33基あります。
このうち、これまでに原子力規制委員会による新しい規制基準の審査に合格し、再稼働したのは、伊方原発3号機を含めて5原発9基です。
具体的には、鹿児島県にある川内原発1号機と2号機、佐賀県にある玄海原発3号機と4号機、福井県にある高浜原発3号機と4号機、大飯原発3号機と4号機、それに愛媛県にある伊方原発3号機です。
このほか、青森県にある大間原発と、島根県にある島根原発3号機を含む18基で、再稼働の前提となる審査が申請されています。
愛媛県知事「安全確保に万全を期す」
愛媛県の中村時広知事は「裁判の当事者でないので、広島高裁の決定に対するコメントは差し控えるが、県としては今後とも、県民の安全・安心を守るため、必要と思われることについて、四国電力や国に対応を求めていくなど、伊方原発の安全確保に万全を期していく」というコメントを出しました。
弁護団長「全面勝訴と言っても過言ではない決定だ」
午後2時すぎ、広島高裁前では支援者らが「勝訴」などと書かれた紙を掲げ、集まった人たちからは拍手や歓声が上がりました。
弁護団長の中村覚弁護士は「全面勝訴と言っても過言ではない決定だ。阪神・淡路大震災から25年となるこの日に、地震の問題などを理由に裁判所が差し止めの決定を出したことは、地震の脅威について、裁判所が強く警告してくれたのだと思う。本当によかった」と話していました。