イスラエル軍とヒズボラの間では、去年10月からの戦闘でレバノン側の死者が3800人以上にのぼり、イスラエル側でもおよそ6万人が避難を余儀なくされる事態となっていて、アメリカが停戦に向けて働きかけていました。
これについて、イスラエルのネタニヤフ首相は26日、テレビ演説し、ヒズボラとの停戦案について、閣議承認の手続きを行うことを明らかにしました。
停戦に応じる理由について、ネタニヤフ首相はイランの脅威に備えて軍の態勢を立て直すとともに、ガザ地区のイスラム組織ハマスを孤立させるためだとしました。
アメリカのバイデン大統領は日本時間の27日午前5時半ごろ、イスラエルとヒズボラの戦闘をめぐり、イスラエル・レバノン両政府がアメリカの停戦案を受け入れたと発表しました。
停戦は現地時間の27日午前4時、日本時間の27日午前11時から始まるとしています。
バイデン大統領は今後60日間でレバノンの正規軍がイスラエルとの国境周辺に展開し、ヒズボラの拠点の再建を認めないとするとともに、イスラエル軍も徐々に部隊を撤退させるとしています。
また、フランスなどとともに取り決めが完全かつ効果的に実施されるよう、支援していくとしました。
イスラエル首相府は26日、停戦案を閣議で承認したと発表しました。
発表に先だってネタニヤフ首相はテレビ演説し、停戦に応じる理由について、イランの脅威に備えて軍の態勢を立て直すとともに、ガザ地区のイスラム組織ハマスを孤立させるためだとしました。
イスラエル軍は停戦案の受け入れの発表前にもレバノンの首都ベイルート郊外などでヒズボラの拠点に空爆を行ったと明らかにするなど攻勢を強め、ヒズボラもイスラエル北部にロケット弾による攻撃を繰り返すなど、双方の応酬が続いてきました。
イスラエルとヒズボラの間で停戦が守られ中東の緊張の緩和につながるかが焦点となります。
国連 グテーレス事務総長「暴力と破壊、苦しみに終止符を期待」
国連のグテーレス事務総長は停戦合意について26日「両国の国民が経験してきた暴力と破壊、苦しみに終止符が打たれることを期待する」と声明を発表しました。
そのうえで、国連のレバノン特別調整官事務所と、国連のレバノン暫定軍が合意の履行を支援する用意があるとしています。
米仏が共同声明「停戦が完全に守られるよう協力に努める」
イスラエルとレバノン両政府が停戦案を受け入れたことについて、停戦に向けた協議の調整にあたったアメリカとフランスが、共同で声明を発表しました。
この中で、両国は「レバノンでの戦闘は停止され、イスラエルはレバノンを拠点とするヒズボラや、その他のテロ組織の脅威から守られることになる」として成果を強調しています。
そして「アメリカとフランスは、停戦が完全に守られるよう、イスラエルやレバノンとの協力に努め、この紛争が新たな暴力の連鎖となるのを防ぐことを決意する」としています。
また、フランスのマクロン大統領がビデオで声明を発表し、「いまもなおガザで続く戦争の事実を忘れてはいけない。今回の合意は、ガザでの停戦への道も開くものだ」と述べ、ガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの間の停戦にも取り組みたい考えを示しました。
レバノン ミカティ首相「地域の安定の確立に貢献」
レバノンのミカティ首相は、イスラエルとヒズボラの戦闘をめぐり、イスラエル・レバノン両政府がアメリカの停戦案を受け入れたことについて、声明を発表しました。
この中で「レバノンに平穏と安定を確立し、避難している人たちが家に戻れるようにするための基本的な一歩だと考える。そして地域の安定の確立にも貢献するものだ」などとしています。
また停戦に向けて調整にあたったアメリカとフランスにも謝意を示しました。
【中継】ワシントン支局 戸川武記者
【中継】エルサレム支局 田村佑輔支局長
【解説】国際部 澤畑剛デスク
【イスラエルとヒズボラが停戦の合意に至った背景は】
結んだのはイスラエルとレバノンですが、実態はイスラエルとヒズボラの停戦合意です。
イスラエルのねらいはこれまでの軍事作戦でヒズボラを弱体化させたとして、停戦合意を結び、避難生活を強いられてきたイスラエル北部の住民を帰還させるというもの。
もうひとつのねらいはイスラエルはこれまで北からはレバノンのヒズボラ、南からはガザ地区のハマスに挟み撃ちされる格好になっていたため、両者の連帯にくさびを打ち込みたいというものです。
一方のヒズボラ側も、停戦案に前向きとされてきました。
イスラエル軍の空爆で、カリスマだった最高指導者ナスララ師が殺害されたほか、レバノン国内で停戦を求める圧力が高まっていました。
このため停戦に応じて、組織の立て直しを図りたいとみられます。
後ろ盾となっているイランにとってもヒズボラの勢力を温存させたい思惑がありそうです。
レバノンの戦闘を振り返ると去年10月、ヒズボラは、ハマスとの連帯を掲げてイスラエル領内にロケット弾などを発射して始まりました。
戦闘が激化したのはことし9月。
イスラエルは、ヒズボラのメンバーが所有するポケットベルやトランシーバーにあらかじめ爆発物を仕込んで、一斉に爆発させました。
そしてイスラエル軍はヒズボラの拠点への空爆を繰り返し、最高指導者のナスララ師など多くの幹部を殺害しました。
さらに10月になると、イスラエル軍の地上部隊はレバノンに地上侵攻しました。
これに対し、ヒズボラはロケット弾などで反撃を続けていました。
【合意された停戦案とはどのようなものか】
バイデン大統領の説明などによると、今後60日間にまず、レバノンの正規軍がレバノン南部に展開します。
南部にいたヒズボラは国境から30キロ離れたリタニ川という川の北に重火器を移し、軍事拠点を再建しないようレバノン軍が監視するというもの、レバノン南部に地上侵攻したイスラエル軍は徐々に部隊を撤退するというものです。
今回の合意された停戦案は2006年に締結された停戦案の焼き直しと言えそうです。
ヒズボラは、ハマスへの連帯を掲げて、ガザ地区の停戦がなければ、イスラエルへの攻撃を続けていました。
それだけに停戦が結ばれたことはイスラエルにとってはねらい通りであり、逆にハマスにとっては大きな痛手と言えます。
今後、合意に基づき、レバノンの停戦が発効した場合、次の焦点は行き詰まっているガザ地区でのイスラエルとハマスの停戦協議にどのような影響を与えるのか。
ハマスは今のところ、徹底抗戦の構えを崩さず、およそ100人の人質といういわば停戦協議のカードを持っています。
ガザ地区の停戦が実現しない限り中東の安定はのぞめず、国際社会のさらなる働きかけが求められます。