トランプ次期大統領は不倫の口止め料をめぐって帳簿などの業務記録を改ざんした罪に問われた刑事裁判で、去年5月に有罪の評決を受けました。
10日、ニューヨークの裁判所にオンラインで出廷したトランプ氏は今回の裁判で初めて廷内で発言し、「私は完全に無実で何も悪いことはやっていない。政治的な魔女狩りだった。極めて不公平な扱いを受けた」などと主張しました。
これまでトランプ氏側は、大統領在任中の公務としての行動は免責されるべきなどとして有罪評決を破棄するよう求めるとともに、直前まで量刑の言い渡しを延期するよう申し立てを続けてきました。
マーシャン裁判官は量刑の言い渡しにあたって、「並外れた法的な保護は大統領の職にひもづいているのであって、その人物に与えられているわけではない」と、トランプ氏を特別扱いすべきではないと強調しました。
その上で「この国の最高の地位を制限することなく、有罪の判決を可能にする唯一の合理的な方法は、無条件での放免だ」と述べ、有罪の評決を維持する一方で、刑罰は科さないとする判決を言い渡しました。
刑事裁判で有罪となった人物が大統領に就任するのは、史上初めてです。
トランプ氏側は控訴する方針を明らかにしました。
トランプ氏 SNSに「でっち上げについて控訴」
トランプ氏は判決を受けてSNSに投稿しました。
「急進的な民主党はまたしても魔女狩りに失敗した。私は無条件で放免されることになった。この結果だけ見ても、この件については訴えを起こす事実が全く存在しないことが証明されていて、この一連のでっち上げ事件は完全に退けられるべきである。私たちはこのでっち上げについて控訴し、かつての偉大なる司法制度に対するアメリカ国民の信頼を回復する」として、民主党の政治的な動機による訴追だったと改めて主張した上で、有罪の評決は受け入れられず控訴する姿勢を示しました。
専門家「陪審員の評決を尊重」
駿河台大学の名誉教授でアメリカの司法制度に詳しい島伸一弁護士は、「トランプ氏に何の刑罰も処分も科さず、形ばかりの量刑と言える。終始、前例のない特異な裁判となった。しかし、少なくともアメリカの司法制度において、民意の反映である陪審員の評決を尊重し、守ったという意味では、大きな意義を持つ判断だ」と話しています。
「口止め料裁判」とは
トランプ氏が、当時の顧問弁護士などを通じて「性的関係を持った」と主張する女優などに口止め料を支払ったとされるニューヨーク州の裁判は、「口止め料裁判」と呼ばれています。
2016年の大統領選挙の前にこの口止め料をみずからの会社から弁護士側に返済した際、「弁護士費用」としたことが帳簿などの業務記録の改ざんにあたり、ニューヨークの州法に違反したとして、伝票や小切手ごとに34件について罪に問われました。
去年4月の初公判以降、原則週4回のペースで公判が開かれ、被告のトランプ氏も連日出廷しました。
市民から選ばれた12人の陪審員は、検察側の立証と弁護側の反論をもとに、トランプ氏が有罪か無罪か非公開で話し合った結果、去年5月30日に「有罪の評決」を下しました。
その後、トランプ氏は「不正で恥ずべき裁判だ。本当の評決は、大統領選挙の投票日の11月5日に国民によって下される」と述べるなど、政治的な意図で司法が利用されていると繰り返し主張していました。
裁判官による量刑の言い渡しは当初は去年7月に予定されていましたが、連邦最高裁判所が議会乱入事件をめぐるトランプ氏の刑事責任について「大統領在任中の公務としての行動は免責される」という判断を示したことを受けて、いったん延期されました。
しかし9月には大統領選挙に影響を与えようとしているといった見方を避けるなどの理由で、量刑の言い渡しは11月の選挙後に再度延期され、その後もトランプ氏が次の大統領に就任することなどを踏まえ、裁判所は判断をたびたび先延ばしにしてきました。
トランプ氏のほかの刑事裁判は
トランプ氏が起訴された4つの刑事事件のうち、
▽4年前の連邦議会乱入事件と▽前の任期を終えたあとに最高機密を含む文書を自宅で不正に保管していたとされる事件について、連邦最高裁判所などは去年11月、検察による起訴の取り下げを認めました。
また、▽2020年の大統領選挙で敗れた際に、南部ジョージア州の州政府に圧力をかけて結果を覆そうとした罪に問われていますが、検事の適性をめぐる問題などから審理は進んでいません。
トランプ氏側は州の裁判所に対し、起訴は取り下げられるべきだとする申し立てを行っています。