今回の台風で巨大遊水地として機能したのは、ラグビーワールドカップの日本戦や決勝などの会場になっている「横浜国際総合競技場」がある横浜市港北区の新横浜公園です。
隣接する鶴見川に面した堤防には、一部分をあえて低くする「越流堤」が設けられ、水位が上昇して氾濫するおそれがある場合に川の水を引き込めるようになっています。
また競技場は1000本以上の柱で支えられている高床式で、競技場の下に水を流し込める構造です。
遊水地全体で25メートルプール1万杯分に当たる390万立方メートルの水を一時的にため込むことができ、台風19号の際には、増水した鶴見川からおよそ94万立方メートルの水を引き込んだということです。
国土交通省は、鶴見川では横浜市内の観測所の1つで、水位の上昇を30センチ抑えられたと分析していて、巨大遊水地がなければ氾濫危険水位を超えていたおそれがあるとしています。
国土交通省の京浜河川事務所の太田敏之副所長は「まとまった土地が確保できれば、遊水地は都市型河川の洪水対策として一定の効果が見込まれる。一方で、近年は想定を上回る雨が降るなど、ハード面の整備だけでは限界があるので、住民にはみずから身を守る行動をお願いしたい」と話していました。
住民「遊水池できて浸水なくなった」
横浜市鶴見区の潮田地区では昭和57年に鶴見川が洪水を起こした際、川の流域で浸水被害が出ました。
この地域で昭和20年代から駄菓子屋を営むという70代の男性は「30年ほど前には4年に1回ぐらい浸水があり、ひどいときには畳の上まで水につかったこともありました。遊水地ができてからは浸水はなくなり、暴れ川のイメージも変わってきました。ただ、想定を超える雨が降ることもあるので対策はしっかりしたいです」と話していました。
“暴れ川”「狩野川台風」規模の水害対策を目標
鶴見川は、東京 町田市から横浜市や川崎市にかけて流れる全長およそ42.5キロメートルの一級河川です。
台風などの大雨のたびに幾度となく洪水を起こしたことから、流域では「暴れ川」と呼ばれてきました。
昭和50年代には5度の台風で洪水が起きて浸水しているほか、平成に入ってからも、排水が追いつかず市街地で水があふれる「内水氾濫」を引き起こしています。
背景には高度経済成長期の急激な市街化があると考えられています。
流域の市街地率は昭和33年にはおよそ10%でしたが、現在は90%以上と一気に市街化が進んだことで、保水機能を持つ田畑がコンクリートに変わり、鶴見川に大量の水が流れ込むようになったとみられています。
こうした中、国土交通省は今回の台風19号でも注目された昭和33年の「狩野川台風」規模にも対応できる水害対策を目標としました。
すでに流域が整備されていた鶴見川は、川幅を広げる対策には限界があったことから、横浜国際総合競技場がある新横浜公園などの84ヘクタールの土地を活用し、巨大な遊水地を整備して、平成15年から運用を開始しました。
遊水地ができて以降は鶴見川で洪水が起きたケースはないということです。