孤立こりつしがちな母親ははおやを支援しえんしようとセンターが始はじめたのが、「母子ぼし同室どうしつ」です。

母子ぼし同室どうしつは、生うまれたばかりの赤あかちゃんが母親ははおやと同おなじ部屋へやで過すごすことで、少すこしずつ育児いくじに慣なれることができるほか、母乳ぼにゅうが出でやすくなるなど、退院たいいん後ごの育児いくじの基礎きそをつくることができるとして、国内こくないでも多おおくの医療いりょう機関きかんで実施じっしされてきました。

コロナ禍か前まえの2019年ねんに日本にっぽん周しゅう産さん期き・新生児しんせいじ医い学会がっかいがまとめたアンケート調査ちょうさでは、回答かいとうがあった医療いりょう機関きかんのうち9割わりが「母子ぼし同室どうしつを行おこなっている」と答こたえていました。

当初とうしょ、日本にっぽん産科さんか婦人ふじん科か学会がっかいなどは、母親ははおやが感染かんせんした場合ばあい、隔離かくり期間きかん中ちゅうの母子ぼしの接触せっしょくはできないとする内容ないようの見解けんかいを示しめしました。

その後そのご、海外かいがいからは、母子ぼし同室どうしつや授乳じゅにゅうによる赤あかちゃんへの感染かんせんリスクは低ひくいとする報告ほうこくが相次あいつぎ、WHOやアメリカCDC＝疾病しっぺい対策たいさくセンターなどは、感染かんせん対策たいさくを行おこなった上うえで、状況じょうきょうに応おうじて母子ぼし同室どうしつができるという指針ししんを示しめしています。

国内こくないでも、これまでの対応たいおうを見直みなおそうという動うごきが始はじまっています。

新生児しんせいじ医療いりょうに携たずさわる医師いしらでつくる日本にっぽん新生児しんせいじ成育せいいく医い学会がっかいは、去年きょねん12月つき、「世界せかい的てきには知見ちけんが増ふえるにつれ、親おやの意向いこうを確認かくにんの上うえ、母子ぼし同室どうしつが推奨すいしょうが増加ぞうかしている。日本にっぽんにおいてもリスクとベネフィット（利益りえき）を説明せつめいし、母親ははおやや家族かぞくの意向いこうに沿そうなら、施設しせつごとの判断はんだん、ポリシーにのっとって、母子ぼし同室どうしつも選択せんたくされ得えます」などとする見解けんかいを示しめしました。

センターが条件じょうけんとしているのは、母親ははおやが無む症状しょうじょうもしくは極きわめて軽症けいしょうであること。

さらに、「母親ははおやに育児いくじが困難こんなんな産科さんか的てきな問題もんだいがないこと」「赤あかちゃんの状態じょうたいが安定あんていしていること」「病棟びょうとうスタッフが対応たいおう可能かのうであるか」など、17項目こうもくにわたるチェックリストを作成さくせいしました。

母親ははおやが母子ぼし同室どうしつを希望きぼうした場合ばあい、親子おやこ双方そうほうと病棟びょうとうの状況じょうきょうを確認かくにんした上うえで、チェックリストに照てらし合あわせ、実施じっしが可能かのうかを検討けんとうします。

また、赤あかちゃんの世話せわをしないときは、2メートルの距離きょりをとって過すごします。

センターでは現在げんざい、母子ぼし同室どうしつを退院たいいんの前日ぜんじつの1泊はくに限かぎって実施じっししています。

この10か月かげつ間かんで、対象たいしょうとなった11人にんのうち、希望きぼうしたのは10人にん。

赤あかちゃんが感染かんせんしたケースはないということです。

「私わたしたちはもともと、お母おかあさんとお子おこさんの関係かんけい構築こうちくの支援しえんを大事だいじにしながら、お産おさんや赤あかちゃんに向き合むきあってきました。そうした中なかで、コロナ禍かでお母おかあさんが育児いくじについて情報じょうほうを得えるチャンスがなくなってしまっているという状況じょうきょうに、歯はがゆい思おもいがありました。世界せかい的てきには対策たいさくをしっかりしながらであれば、母子ぼし同室どうしつでも赤あかちゃんには移うつすことがほとんどないということがわかってきましたので、何なんとか日本にっぽんの感染かんせん管理かんりの現状げんじょうに合あわせながら、できるだけ母子ぼし同室どうしつができるような環境かんきょうを作つくりたいなと思おもってはじめました」

府内ふないにある実家じっかで過すごしていたときに破水はすいし、お産おさんのためにセンターに入院にゅういん。

そこで新型しんがたコロナの検査けんさを受うけ、感染かんせんがわかりました。

分ぶんべんには夫おっとに立ち会たちあってもらう予定よていでしたが、希望きぼうはかないませんでした。

「コロナに感染かんせんしてしまい、おなかの子こどもにうつしてしまわないかと、罪悪ざいあく感かんもありました。家族かぞくがそばにおらず、ひとりで夜よるを耐たえなければなりませんでした。初はじめての出産しゅっさんでしたが、夜よるはとても長ながく、つらかったです」

だっこしたり、おっぱいをあげたり。

赤あかちゃんとどう接せっしたらいいか、わからないことや不安ふあんなことがあるときは、看護かんご師しに連絡れんらくし、アドバイスをもらうこともできました。

わが子わがことの貴重きちょうな時間じかんは、退院たいいん後ご、育児いくじに向むきあう中なかで大おおきな支ささえになっているといいます。

「実際じっさいに会あって抱だっこしてみると、赤あかちゃんってちっちゃい。うれしかったです。夜よるになって、泣ないてしまったときに不安ふあんになって看護かんご師しさんに相談そうだんしたら、『お昼おひるは静しずかにご機嫌きげんさんでいるけど、夜よるは泣なきますよ』と教おしえてくれました。それまでの様子ようすを伝つたえてくれたことで、泣なくのは私わたしのせいじゃないと思おもえたし、いきなり自宅じたくに帰かえってひとりで向き合むきあうことになっていたら、自分じぶんを責せめていたのではと思おもいます。母乳ぼにゅうやミルクのあげ方かたなど、そのとき教おしえてもらったことを含ふくめ、病院びょういんで赤あかちゃんと一緒いっしょに過すごした時間じかんは育児いくじの支ささえになっています」

今月こんげつ、1か月かげつ検診けんしんのためセンターを訪おとずれた女性じょせい。赤あかちゃんは体重たいじゅうも増ふえ、元気げんきに育そだっています。

赤あかちゃんへの感染かんせんリスクを考かんがえて、母子ぼし同室どうしつを行おこなわないとするところもありますが、センターの取り組とりくみについて、ほかの医療いりょう機関きかんからの問い合といあわせも増ふえているといいます。

ただ、国内こくないで母子ぼし同室どうしつを進すすめるには課題かだいも多おおくあります。

妊婦にんぷや赤あかちゃんを受け入うけいれる病棟びょうとうのスタッフが、新型しんがたコロナへの対応たいおうに慣なれていないケースが多おおい上うえ、感染かんせんした母親ははおやが入はいる病棟びょうとうと、生うまれたばかりの赤あかちゃんをみる病棟びょうとうが離はなれた場所ばしょにある病院びょういんもあるからです。

大阪おおさか母子ぼし医療いりょうセンター新生児しんせいじ科か・感染かんせん症しょう科か 野崎のさき昌俊まさとし副ふく部長ぶちょう

「医療いりょう機関きかんの状況じょうきょうによってさまざまなハードルがあります。例たとえば、うちの病院びょういんだと、産科さんか病棟びょうとうでコロナの患者かんじゃをみているので、お母おかあさんをみるスタッフが直接ちょくせつ対応たいおうできます。一方いっぽう、病院びょういんによっては、妊婦にんぷであっても、産科さんかではなく一般いっぱんのコロナ患者かんじゃをみる病棟びょうとうに入いれているところもあります。妊婦にんぷへのケアをそういった病棟びょうとうで行おこなうのは難むずかしいんじゃないかと思おもいます。さらに、そういった病棟びょうとうに生うまれたばかりの赤あかちゃんを連つれて行いくのはとても難むずかしく、ハードルは高たかいと思おもいます。そういった病院びょういんでは、完全かんぜんに母はは児じ同室どうしつが難むずかしくても、例たとえば、短みじかい時間じかんの面会めんかいなど、少すこしずつできるところから始はじめるのが良よいんじゃないかなと思おもいます」

野崎のさき医師いしは院内いんないで実績じっせきを重かさねながら、今後こんご、母子ぼし同室どうしつの時間じかんを増ふやすことも検討けんとうしたいとしています。

孤立こりつしがちな母親ははおやを支ささえ、コロナ禍かの前まえのお産おさんに近ちかづけようと、現場げんばの模索もさくが続つづいています。