こうした行為について消費者庁は「消費者の合理的な選択を阻害するおそれがある」として大学の教員や弁護士、消費者団体の有識者などによる検討会をことし9月に立ち上げ、規制の必要性や在り方などについて検討を進めてきました。
27日の検討会でまとまった報告書では、ステルスマーケティングについて「規制の必要性がある」と結論づけたうえで、景品表示法の不当表示の対象に、「消費者が、事業者=広告主の表示であることを判別することが困難であると認められるもの」という内容を新たに加え、「禁止行為として指定することが妥当」としました。
規制の対象となるのは、ネットやテレビ、新聞といったすべての媒体で、消費者に広告かどうかを明確に表示するために、例えば「広告」「宣伝」「PR」などといった表示を求めていて、周りの文字と比較して小さく表記されるなど不明瞭な場合は禁止行為に該当すると示しています。
消費者庁は今後、法律での規制に向けて制度設計や運用基準の策定などを進め、来年度以降、施行する方針です。
広告主とインフルエンサーを結び付けるプラットフォームを運営する企業が、消費者庁の委託を受けてことし8月に実施したもので、SNSのフォロワー数が50万人未満のインフルエンサー300人に回答を求めました。 それによりますと、全体のおよそ4割にあたる123人が、「広告主からステマの依頼を持ちかけられた経験がある」と回答しました。 さらに、ステマの依頼にどう対応したか尋ねたところ、55人が、「すべて受けた」か「一部、受けたことがある」と答え、全体の2割近くがステマを行っていたことがわかりました。 依頼を受けた理由については ▽「ステマに対する理解が低かった」など知識不足をあげたのが6割余り(63.6%)で、 ▽「広告主から報酬を得る条件だったから」など広告主の条件にしたがった人が3割余り(30.9%)、 ▽「広告と記載するとフォロワーの信頼を失うから」が2割近く(18.2%)で、 ▽「広告と記載すると商品・サービスが売れないから」(9.1%)といった理由もありました。
女性は「インスタグラムが多いですが、ダイレクトメールで企業や代理店から、『表記なしで投稿してほしい』とか、ハッシュタグの中でも、『PRがわかりづらいように紛れ込ませて投稿する』ことを企業から持ちかけられることはあります。広告ではない投稿の方が多くの人に見てもらいやすいですし、ユーザーの中にも広告に嫌悪感を抱く気持ちもあると思うので、より自然な投稿に見せてほしいという意図があるのかなと思います」と話しました。 女性自身はステマだとわかる依頼は断っているということですが、気付かないうちに自分もステマに加担しているのではと不安を感じることがあると言います。
そのうえで、規制については「あいまいになっている状況を、きちんとルール化してもらえることは、企業側もインフルエンサー側にとっても非常にいいことだと思います。どうしても企業側の立場が上になって、依頼されたら投稿しないといけないという気持ちになるインフルエンサーも多いと思うので、しっかりルール化、整備してもらうことでインフルエンサーが守られるので、すごくいいことかなと思います」と話しています。
一方、ステルスマーケティングが消費者に与えるデメリットについて、「消費者は、インフルエンサーの選択を信じて物を買っているので、消費者自身が選択肢を無くしているのと同じで、実は、インフルエンサーが体験していなかったし、本当はいいと思っていなかった、というのは、消費者にとっては、だまされて誤認して購入したということになる。経済的なダメージと、精神的なダメージのダブルの痛みが生じる」と指摘しました。 会社では、 ▽「#ノーモアステマ」を広告主やインフルエンサーに推奨したり、 ▽適切な広告依頼の出し方などについて広告主向けのセミナーを行ったりするなど、ステマの撲滅に向けた活動も行っているということで、今回の検討会の提言については、「一つルールができることで信頼性を担保していける、業界の健全性に寄与する一歩かなと思う。ルールができることをしっかり周知して、ステルスマーケティングとは何かを理解してもらうことが非常に重要なポイントかなと思う」などと話していました。
消費者庁によりますと、2021年11月、合理的な根拠がないにもかかわらず「#胸大きく」や「簡単にバストアップ」などとネット広告で宣伝してサプリメントを販売していたとして東京の会社に対して再発防止の措置命令を行った事例で、インスタグラムでの宣伝が、投稿者が報酬として商品を提供してもらい宣伝の指示を受けていたにもかわわらずそれを伏せていた「ステルスマーケティング」だったとしています。 また、ECサイトをめぐっては、指定された商品を購入し、高評価のレビューを書き込めば、購入の代金が返金されたり、商品がタダで手に入ったりする、いわゆる「不正レビュー」または「やらせレビュー」も問題視され、有識者検討会では、こうしたケースもステルスマーケティングに当たるのではないかと議論が行われました。 また、「ステルスマーケティングではないか」と疑われた例として動画共有アプリ「TikTok」は2019年7月から2021年12月にかけて、のべ20人のSNSのインフルエンサーに対価を支払って人気の動画を転載するよう依頼していたものの「#PR」などの広告表記をしておらず、「誤認や不信感を与えた」として2022年1月、おわびの文章をホームページで発表しました。 また、2019年にはウォルト・ディズニー・ジャパンが映画「アナと雪の女王2」について、宣伝のために複数の漫画家に感想などを描いた漫画をSNSで発信してもらうよう依頼していたのに、広告と明示していなかったとしてホームページで謝罪したケースや、京都市が、市の取り組みをPRするため人気漫才コンビにツイッターで情報発信をしてもらう対価として100万円を支払う契約を吉本興業と結んでいたにもかかわらず、漫才コンビのツイートの中に「広告」と明示していなかったケースなどがあります。
このうちEUは「不公正取引方法指令」で、不公正となる取引方法を記載したブラックリストがありステルスマーケティングも対象になっているほか、提供されている情報が広告であることを明確に示すことなどを規定している「デジタルサービス法」があるということです。 また、アメリカでは不公正、または欺まん的な行為を違法とする「連邦取引委員会法」で広く包括的にステルスマーケティングの規制が行われているということです。
広告主となっている260社余りの企業が加盟している「日本アドバタイザーズ協会」の鈴木信二専務理事は、NHKの取材に対し、「インターネットの普及などによって若者の購買行動が大きく変化する中で、口コミによるマーケティングは、重要な宣伝方法となっている。ステルスマーケティングへの取締りの強化など検討会の提言に沿った対策を進めてもらい公正な競争が実現することに期待している」と話しています。一方、規制対象の範囲について「悪質なブローカーなど中間事業者によって広告主が把握できない場面でステルスマーケティングが行われるおそれがあるため広告主だけでなく中間事業者への規制もさらに議論を深めてもらいたい」と話しています。
こうしたことから、ステルスマーケティングを解決するために必要性が求められれば、規制の対象範囲を広告主だけでなく、▽仲介事業者や▽インフルエンサーまで拡大するよう検討すべきなど、現行の景品表示法の見直しも含めた更なる規制が必要となってくるなどと提案しています。 消費者庁の有識者検討会の中川丈久座長は「現状は『ステルスマーケティングの存在を知らない』とか、『ステルスマーケティングはいけないことなの?』という段階なので、まずは周知ですが、ステルスマーケティングが違法だという“新しい常識”をどれだけ広げられるか、今回の報告書が極めて大きな第一歩となると考えています」と話していました。
インフルエンサー 2割近くがステマ行う
「表記なしで投稿してほしい」
SNSマーケティング会社「ステマ多くある」
ステマ 過去にも問題多数指摘…
EUやアメリカなど ステマ規制する法律も
広告主「公正な競争 実現を期待」
ステマが違法という“新しい常識”広げられるか