藤井ふじい聡さとし太ふとしと豊島としま将之まさゆきが語かたる「竜王りゅうおう戦せん」単独たんどくインタビュー

19歳さい3か月かげつでの四よん冠かん達成たっせいは史上しじょう最年少さいねんしょう。

現在げんざいの棋士きしで最多さいたのタイトル保持ほじ者しゃとなり、名実めいじつともに将棋しょうぎ界かいの頂点ちょうてんに立たちました。

藤井ふじいさんへのインタビューは「四よん冠かん」となって2週間しゅうかん後ご。

「ようやく一息ひといきつけました」。

和なごやかな表情ひょうじょうが印象いんしょう的てきでした。

4勝しょう、負まけなしで「竜王りゅうおう」奪取だっしゅ。

しかし藤井ふじいさんが口くちにしたのは、達成たっせいの感慨かんがいではなく、冷静れいせいに自分じぶんを見みつめ直なおすことばでした。

「竜王りゅうおう戦せんではいい結果けっかを出だせましたが、内容ないようを見みると、こちらが苦くるしい場面ばめんも多おおかったので、豊島としまさんの強つよさを感かんじたシリーズだった気きがします。うまく指させた対局たいきょくよりも、うまくいかずに課題かだいを感かんじた対局たいきょくが印象いんしょうに残のこっています」

判断はんだんを誤あやまって苦くるしくなった場面ばめんを挙あげ、「課題かだいを突つきつけられた1局きょくだった」と振り返ふりかえりました。

「少すこし苦くるしいながらも粘ねばれていると思おもって指さしていましたが、豊島としまさんの手てが思おもった以上いじょうに厳きびしく、はっきりと苦くるしくなってしまいました。自分じぶんの形勢けいせい判断はんだんを下方かほう修正しゅうせいしたうえで、少すこしでも粘ねばれる手てはないかと考え直かんがえなおしました」

劣勢れっせいに立たたされてからの戦たたかい方かたに、多おおくの学まなびを得えたといいます。

「不利ふりになったときは、苦くるしいながらもなるべく局面きょくめんを複雑ふくざつに保たもてる手てを選えらんで、読み切よみきられないようにしようという意識いしきで指さしました。自分じぶんで考かんがえてみて、自分じぶんの負まけまで読み切よみきることができなければ、相手あいてにとっても負まかすことが難むずかしい場合ばあいが多おおいと思おもうので、苦くるしい状況じょうきょうでも抵抗ていこうして、すぐには負まけに近ちかづかないように指さしたいと思おもっていました」

藤井ふじいさんにとって豊島としまさんは、同おなじ愛知あいち県けん出身しゅっしんの先輩せんぱい。

プロ入いり前まえから練習れんしゅう対局たいきょくで教おそわる間柄あいだがらでした。

去年きょねんまでは6戦せん全敗ぜんぱいで、ただ1人にん、大おおきく負け越まけこす相手あいて。

3つのうち最初さいしょのタイトル戦せん「王位おうい戦せん」開幕かいまく時じの会見かいけんで藤井ふじいさんは、「豊島としまさんは常つねに目標もくひょうとしてきた先輩せんぱい」「自分じぶんの成長せいちょうにつながる機会きかいだと思おもってしっかり戦たたかいたい」と語かたっていました。

その2人にんがぶつかった、「王位おうい」「叡あきら王おう」「竜王りゅうおう」の3つのタイトル戦せん。

6月つきから半年はんとし近ちかくにわたる、全ぜん14局きょくの戦たたかいとなりました。

叡あきら王おう戦せんはフルセットにもつれ込もつれこむ熱戦ねっせん。

そして迎むかえた竜王りゅうおう戦せんは、トップ棋士きしたちの想像そうぞうを超こえるハイレベルな戦たたかいとなりました。

（豊島としま将之まさゆき九きゅう段だん）

「成長せいちょうなのか、リズムなのか、理由りゆうはわからないですが、竜王りゅうおう戦せんのほうが藤井ふじいさんの将棋しょうぎのクオリティーが高たかかった気きがします。序盤じょばんから終盤しゅうばんまで、どこをとっても強つよさがあります。序盤じょばんは、新あたらしい戦術せんじゅつを取り入とりいれるスピードが早はやいです。中盤ちゅうばんは、手てをとにかくたくさん読よめる。終盤しゅうばんは、詰つむ・詰つまないの判断はんだんが非常ひじょうに正確せいかくで早はやい。竜王りゅうおう戦せんで自分じぶんがミスをした場面ばめんをひもとくと、自分じぶんには難易なんい度どが高たかかったと感かんじる局面きょくめんが多おおかったのですが、そうした中なかでも藤井ふじいさんは正確せいかくに読よめていると感かんじることが多おおくありました」

自身じしんにとっても、藤井ふじいさんの存在そんざいが大おおきくなっていったことを、今回こんかいのインタビューで明あかしました。

幼おさない頃ころから才能さいのうが注目ちゅうもくされ、将来しょうらいの名人めいじん候補こうほと期待きたいされてきた豊島としまさん。

しかしプロ入いり後ご、タイトル獲得かくとくまでの道みちのりは遠とおく、苦くるしい時間じかんが続つづきました。

3年ねん前まえ、悲願ひがんだった初はつタイトルをつかんだときの心こころの内うちを語かたりました。

「タイトルを取とるまで苦戦くせんしたので、最後さいごのほうは『タイトルが1つ取とれればいいや』みたいな気持きもちになっていて、それ以外いがいの目標もくひょうがなくなっていました」

「藤井ふじいさんは、プロ入いり後ごの29連勝れんしょうや詰将棋つめしょうぎの解答かいとうの速はやさ、指さす将棋しょうぎの内容ないようも、その年齢ねんれいにして脅威きょうい的てきなものがあったので、将来しょうらいは本当ほんとうにすごいレベルの、これまでにいなかったレベルの棋士きしになると感かんじていました」

2人にんが印象いんしょうに残のこっていると答こたえたのが、いずれも竜王りゅうおう戦せんが決着けっちゃくする第だい4局きょくの最終さいしゅう盤ばん。

ファンや関係かんけい者しゃが勝負しょうぶの行方ゆくえに注目ちゅうもくする中なか、2人にんが語かたったのは、勝敗しょうはいを超こえて「将棋しょうぎの真理しんりを追究ついきゅうできた」という充実じゅうじつ感かんでした。

第だい4局きょくの最終さいしゅう盤ばん、トップ棋士きしたちが「あまりに難解なんかいだった」と振り返ふりかえる局面きょくめん。

豊島としまさんは長考ちょうこうして答こたえを探さがし続つづけましたが、わずかに読よみが先さきを行おこなった藤井ふじいさんが勝利しょうりをつかみました。

2人にんは対局たいきょく後ごもしばらく、この場面ばめんについて考かんがえ続つづけていたといいます。

「結果けっかがどうとかではなく、『もう少もうすこし対局たいきょくを続つづけたかった』という思おもいはあります。難むずかしい局面きょくめんについては、1人にんでも考かんがえることはいくらでもできるのですが、限かぎられた時間じかんの中なかで藤井ふじいさんから返かえってくるいい手てに、『ああ、なるほど』と感かんじることが多おおかったんです。難むずかしい局面きょくめんで正解せいかいを指さしていけば続つづいていくので、羽生はぶ善治よしはるさんが“テニスのラリー”に例たとえていたことがありましたが、あの局面きょくめんでもう少もうすこし正解せいかいを指さし続つづけたかったという思おもいです。ことばにするのは難むずかしいですが、純粋じゅんすいに、対局たいきょくしている瞬間しゅんかんが気持きもちのいい時間じかんでした」

「終局しゅうきょくしてすぐに浮うかんだのは、タイトルを獲得かくとくした実感じっかんではなくて、『将棋しょうぎのことをもう少もうすこし考かんがえていたい』という思おもいでした。最終さいしゅう盤ばんでこれほど複雑ふくざつな局面きょくめんは珍めずらしくて、その局面きょくめんを考かんがえる時間じかんは、勝ち負かちまけとは別べつにすごく楽たのしい時間じかんでした。『棋は対話たいわなり』と言いわれますが、人間にんげんどうしの対局たいきょくで選えらばれる指し手さしてには、対局たいきょく者しゃが考かんがえた“意味いみ”や“意思いし”のようなものが込こめられます。もう一方いっぽうの対局たいきょく者しゃが、その意思いしを受け取うけとってまたそれを返かえす。それが『対話たいわ』なんだと思おもいます。もちろん、勝敗しょうはいが大おおきな意味いみを持もつ1局きょくなのですが、その中なかでも、純粋じゅんすいな将棋しょうぎの楽たのしさを共有きょうゆうできたことが本当ほんとうに幸しあわせだったと思おもいます」

インタビューでは、“これから先さき”を見据みすえたことばがあふれました。

「ここまで完璧かんぺきにストレート負まけしたのは初はじめてですし、根本こんぽん的てきに将棋しょうぎの実力じつりょくを上あげなければ勝負しょうぶにならないという人ひとは、タイトルを取とってからはあまりいませんでした。3つタイトル戦せんに敗やぶれて無冠むかんになったので、まずは、これからの取り組とりくみ方かたを変かえなければいけません。今回こんかいの対局たいきょくがどんな意味いみを持もつのかは、これから自分じぶんがどれくらい活躍かつやくできるか、どれくらい成長せいちょうできるかにかかっていると思おもいます。これから自分じぶんが強つよくなれたら、この対局たいきょくの日々ひびがきっかけだったということになるんだと思おもいます」

今後こんごについて尋たずねると、これまでと変かわらず「強つよくなりたい」。

そして、藤井ふじいさんの視線しせんは、強つよくなった先さきにある世界せかいに向むけられていました。

「1人にんの方ほうとこんなに続つづけて対局たいきょくすることはなかったので、対戦たいせんを重かさねることで相手あいての将棋しょうぎや考え方かんがえかたがより深ふかくわかるところがあって、すごく貴重きちょうな経験けいけんでした。豊島としまさんは、自分じぶんにとっては今後こんごも1つの目標もくひょうであり続つづける方ほうだと思おもっています。自分じぶんは将棋しょうぎを指さすうえで、『おもしろい』と思おもえることがいちばん大事だいじなことだと思おもっています。ここが到達とうたつ点てんだとか、明確めいかくな目標もくひょうがあるわけではありませんが、もっと強つよくなることで、これまでよりもおもしろい局面きょくめんに出会であえることが多おおくなると思おもうので、少すこしずつでも、そういうところに近ちかづいていきたい」