得意の「そり投げ」を警戒されながらも勝ち抜いてきた文田健一郎選手。最後は敗れましたが、大きく成長した姿を見せました。
「そり投げで勝つのが一番の理想。でもすごく警戒されると思う」
大会前、そう話していた文田選手。これまで、一貫して「そり投げ」にこだわってきました。「“投げ”こそグレコローマンスタイルの真骨頂」というのが信念。
特に背中を大きく反らせ、後方に投げる「そり投げ」は「世界一の切れ味」と言われ、レスリングの指導者である父・敏郎さんに中学生の頃からたたき込まれてきました。反面、その得意技は海外勢にも広く知られていて、文田選手と戦う際に「そり投げ対策」を取るのはもはや常識となっています。
文田選手との対戦で不用意に前に出ると投げられる確率が高くなるため、腰を大きく引き間隔を取って、投げを封じる作戦に出る選手が多く見られました。
2017年ごろから「自分のスタイルに限界を感じていた」という文田選手。その殻を破るためそり投げ以外の攻め方を磨き始めました。
1つが、ウエイトトレーニングに取り組み「前に出る力」を付けることです。相手を上回るパワーで押し込んでいけば、相手を場外に出すことができ、対抗して押し返してくればそり投げでしとめられるからです。
さらに寝技にも力を入れました。相手を押し続ければ相手が消極的な姿勢と判断されて「パーテレポジション」と呼ばれる寝技の体勢に入ることができる可能性が高くなります。引きつける力が強い文田選手だけに相手を回転させる寝技「ローリング」は非常に強烈で、そり投げに次ぐ「第二の必殺技」と言えるまでに磨き上げました。
「自分のすべてを出して金メダルを獲得したい」と臨んだ今大会。予想どおりほとんどの相手が徹底してそり投げを出させないよう腕を取って腰を引き、警戒してきましたが、文田選手は「想定どおり」と慌てず寝技に持ち込み、ローリングでポイントを奪って勝ち上がりました。
「そり投げ」のイメージがあるだけに技を出さなくても相手には大きなプレッシャーになり、積極的なレスリングをさせませんでした。
決勝で敗れ、金メダルこそつかめませんでしたが、初めてのオリンピックで大きな成長ぶりを示しました。