無痛むつう分娩ぶんべん 休止きゅうしします

無痛むつう分娩ぶんべんをめぐってはまれに合併症がっぺいしょうなどで妊婦にんぷが亡なくなるケースも起おきています。

阪大はんだい病院びょういんでは、薬くすりなどで陣痛じんつうを起おこすことはせず、自然しぜんな陣痛じんつうを待まつ方法ほうほうを維持いじしてきました。

そのために必要ひつようなのは、24時間じかん常駐じょうちゅうする麻酔ますい科か医いです。

陣痛じんつうが起おきたら、痛いたみに応おうじて麻酔ますい科か医いが麻酔ますいを行おこない、万が一まんがいち、異変いへんが起おきた場合ばあいも対応たいおうできる態勢たいせいをとってきたのです。

ごくまれに起おきる合併症がっぺいしょうに対応たいおうするため、無痛むつう分娩ぶんべんは、産科さんかの麻酔ますいに詳くわしく、トレーニングを受うけた麻酔ますい科か医いの立ち会たちあいのもと行おこなうべきだと木村きむら教授きょうじゅは考かんがえています。

理由りゆうは、麻酔ますい科か医いの人手ひとで不足ふそくです。

無痛むつう分娩ぶんべんに対応たいおうしていた麻酔ますい科か医いが減へった一方いっぽう、麻酔ますいが必要ひつようなほかの手術しゅじゅつは増ふえ続つづけていたのです。

現在げんざいのレベルの安全あんぜん性せいを維持いじしながら、無痛むつう分娩ぶんべんに対応たいおうしていくことは難むずかしいと判断はんだんしました。

欧米おうべいの大学だいがく病院びょういんのように、妊婦にんぷが望のぞめば当たり前あたりまえに無痛むつう分娩ぶんべんを選えらべる環境かんきょうを国内こくないでも実現じつげんしたいと考かんがえていた木村きむら教授きょうじゅ。

休止きゅうしは苦渋くじゅうの決断けつだんだったと言いいます。

（木村きむら正ただし教授きょうじゅ）

「阪大はんだいの無痛むつう分娩ぶんべんに期待きたいし、希望きぼうしてくださっていた妊婦にんぷのみなさんには本当ほんとうに申し訳もうしわけない気持きもちでいっぱいです。ただ、大学だいがく病院びょういんが行おこなうことは日本にっぽんの標準ひょうじゅんになりますし、中途ちゅうと半端はんぱな形かたちでやることはよくないだろう、きちっとした形かたちで進すすめたいという思おもいもあり、休止きゅうしを決断けつだんしました」

この日ひ予定よていされている手術しゅじゅつは42件けん。

確認かくにんが終おわると、麻酔ますい科か医いたちは急ぎ足いそぎあしでそれぞれの手術しゅじゅつ室しつに向むかいます。

日にち中ちゅうは30人にんの麻酔ますい科か医いが総出そうでで対応たいおうしていますが、それでも人手ひとでが足たりなくなることがあると言いいます。

阪大はんだい病院びょういん　麻酔ますい科か医い 吉田よしだ健史たけし医師いし

「人員じんいん配置はいちは常つねにギリギリで悩なやましいです。予定よていしているものに加くわえて緊急きんきゅうの手術しゅじゅつも入はいってくるので、どこにだれを配置はいちするのかやりくりが大変たいへんです」

▼AM8:30

臓器ぞうき移植いしょくからさまざまながんまで、阪大はんだい病院びょういんの手術しゅじゅつ件数けんすうは年々ねんねん増加ぞうかしています。

2022年度ねんどは1万まん2千せん件けんと、前まえの年度ねんどより1000件けん近ちかく増ふえました。

全国ぜんこくの国立こくりつ大学だいがく病院びょういんの中なかでもトップクラスです。

手術しゅじゅつ件数けんすうの増加ぞうかに伴ともなって麻酔ますい科か医いの仕事しごとも増ふえ、人手ひとで不足ふそくにつながっているのです。

慎重しんちょうな管理かんりが求もとめられる集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつの患者かんじゃへの対応たいおうも行おこなっています。

▼PM0:15

集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつの患者かんじゃの体調たいちょうに変化へんかがないか確認かくにんを終おえた吉田よしだ医師いしは、つかの間つかのまの休憩きゅうけいに入はいりました。

食事しょくじをとりながら、このあとの手術しゅじゅつの予定よていや人員じんいんの配置はいちをチェックします。

（吉田よしだ医師いし）

「これできょうの一いち日にちの楽たのしい時間じかんは終おわり。あとは仕事しごとをやるだけですね」

午後ごごには緊急きんきゅうの手術しゅじゅつが3件けん入はいってきました。

▼AM1:00

吉田よしだ医師いしが仕事しごとを終おえたのは、日付ひづけが変かわった午前ごぜん1時じすぎでした。

「私わたしたちの限かぎられた人員じんいんをどこに配分はいぶんするかを考かんがえなければなりません。阪大はんだい病院びょういんでしかできない高度こうどな技術ぎじゅつを必要ひつようとする手術しゅじゅつの麻酔ますいや、集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつの患者かんじゃへの対応たいおうを優先ゆうせんすると、今年度こんねんどは無痛むつう分娩ぶんべんに割さく人員じんいんが減へってしまったというのが現実げんじつです」

その上うえで、こう強調きょうちょうしました。

「無痛むつう分娩ぶんべんが麻酔ますい科か医いの仕事しごとの一ひとつだということは、医局いきょく全員ぜんいんの共通きょうつう認識にんしきです。現場げんばの医師いしとして、できるだけ早はやく再開さいかいしたいという思おもいは常つねに持もっています」

阪大はんだい病院びょういんでは、今後こんごどのような形かたちで再開さいかいできるのか、協議きょうぎを続つづけています。

大阪おおさか公立大こうりつだい学がく大学院だいがくいん　医学いがく研究けんきゅう科か女性じょせい生涯しょうがい医学いがく　橘たちばな大介だいすけ教授きょうじゅ

「歯はの治療ちりょうや外科げか手術しゅじゅつを受うけるときに麻酔ますいで痛いたみを取り除とりのぞくように、お産おさんに伴ともなう強つよい痛いたみを和やわらげたいと考かんがえるのは当然とうぜんです。“陣痛じんつうは耐たえて当たり前あたりまえ”という考かんがえを周囲しゅういが持もたないよう改あらためるべきでしょう。同時どうじに、緊急きんきゅう時じに対応たいおうできる体制たいせいを構築こうちくし、万が一まんがいちの合併症がっぺいしょうに対応たいおうできる体制たいせいづくりも不可欠ふかけつです」

とはいえ、麻酔ますい科か医いの数かずを増ふやすのは簡単かんたんではありません。

橘たちばな教授きょうじゅは、お産おさんを扱あつかう医療いりょう機関きかんをある程度あるていど集約しゅうやく化かして麻酔ますい科か医いを集あつめる方法ほうほうも検討けんとうする必要ひつようがあるかもしれないとしています。

一方いっぽうで、出産しゅっさんに対応たいおうする医療いりょう機関きかんが集約しゅうやくされることは、地元じもとやふるさとで出産しゅっさんしにくくなることにもつながり、賛否さんぴさまざまな意見いけんがあります。

女性じょせいの“当然とうぜんの権利けんり”と教授きょうじゅが指摘してきする無痛むつう分娩ぶんべん。

国内こくないでお産おさんに臨のぞむ多おおくの女性じょせいが選択せんたくできるようになる見通みとおしは、立たっていません。