徹子から電話がありました。今から5、6年前のことです。
「ねええ、ママ、千葉へ行ってきたの」
電話の声が弾んでいます。きっと何かおもしろいことがあったんだろうと思い、私も「そうだったの」と相槌を打ちながら、彼女の次の言葉をワクワクしながら待っています。
「窓から太陽の沈む様子が、この世のものとは思えないほど美しいと評判の旅館があってね。それを見に、10人ぐらいの有志で出かけたわけ」
ちょっとひと呼吸おいてから、また話しはじめました。
「昼間の間は散歩したり、みんなで楽しく遊んでね、そろそろ時間になったわけ。(1)さあ、時間だ!というので、みんなで窓のそばに座り、固唾をのんで待ってたの。「ホラ、沈むわよ」、「ウワーッ、すごい」、「この偉大な夕日にかなうものはこの世には何もない」なんて口々に言いながら、あまりの素晴らしさに胸打たれて、最後はもう、みんな声も出なくなっちゃったほどだったのね。そのとき突然私が言ったのよ」
「あら、何て言ったのよ」
もうここまでくると(2)好奇心剥き出しです。
「ここで雑魚寝して、明日の朝、また太陽が出るのを見ない?って。一瞬みんな私の言葉が理解できなくて、その後一斉に後ろに引っくり返ったのよ。畳の部屋でほんとよかったわ」
私には、なぜみんなが引っくり返ったのかが理解できません。
「あら、どうして(3)それがおかしいわけ。あなた何も間違ったこと言ってないじゃないの」
(中略)
「やっぱりママもそうなんだ。(___4___)。ね、わかった?
「あっ、そうだわ。太陽は東から昇って西に沈むんだものね」
ようやく私も納得。
(黒柳朝『トットちゃんと私』による)
声が弾む:普段とは違う、うれしそうな声の調子になる
相槌を打つ:人の話を聞きながら、「はい」「ええ」などと昌って調子を合わせる
固唾をのむどうなるかと緊張しながら見守る
~にかなう:~と同じくらいすばらしい