「日本の消費者は世界一、目が肥えている」という言葉には二つの意味がある。第1は機能や味などへの要求水準が高いこと。第2には、わずかな傷も許さないなど見た目へのこだわりだ。
消費者は後者のこだわりを捨てつつある。それでは消費者は嫌々「傷物」に目を向け、我慢して買っているのか。必ずしもそうではない。
衣料品や家具などでは中古品市場や消費者同士の交換が盛んだ。再利用でごみが減り、環境にもいい。商品の傷も前の使用者のぬくもりとプラスにとらえる感性が若い人を中心に広がっている。
規格外の農産物も似ている。ごみになるはずのものを安く使い、エコロジーと節約を両立させることに、前まえ向きの価値を見いだしているのではないか。不ぞろいな野菜は、むしろ手作り品を思わせる長所。消費者の新たな価値観に、企業がようやく追いついてきた。
市場が広がれば、粗悪品や不良品が出回る可能性も高まる。なぜ安いのか。本来の価値は損なわれていないか。企業の責任は重い。消費者にも「厳しい目」をきちんと持つことが求められる。
(日本経済新聞2009年8月27日付朝刊による)
目が肥えている:よい物を見慣れていて、物の価値がわかる
ぬくもり:あたたかい感じ