以下は、絵本の選び方について述べた文章である。
たいへん有効な一つの方法は、絵本を見るとき、子どもと同じやり方、つまり、字は読まず、絵だけで物語を追っていくというやり方で、絵本を見ていくことです。わたしも、新しい本を手にしたときは、かならずこのやり方で見ることにしていますが、そうすると、いろんなことが、とてもよくわかってきます。
字にたよらず絵だけ見ることは、わたしたちの心を、必然的に、単純で具体的な考え方のレベルにとどめてくれますし、当然のことながら、絵の中に意味をさぐろうとする心の働きを強めてくれます。そうして見ていくと、絵それ自体が何かを語りかけてくれる場合と、文を読んでからでなければ何の意味ももたない。いわば装飾的な働きしかしていない場合とが、実にはっきりしてきます。絵が何かを語りかけてくれないものは、ほんとうの意味では絵本とはいえないので、こうして見ていくと、体裁は絵本でも、「1」絵本とは呼べないものが少なくないことがわかってきます。(中略)
また絵だけを丹念に見ていると、絵のもつ雰囲気も調子も、文と合わせ見るときより、よくわかる気がします。そして、それをつかんだあとで文を読むと、絵と文の関係がしっくりいっているかどうかが、はっきりわかります。登場人物の服装とか、背景とかの具体的な事実が、文と絵で違っていることがいけないのはもちろんですが、絵全体の調子やムードが、物語のそれと合わないのは、絵本としては、「2」大きな欠点です。
(松岡享子・東京子ども図書館『えほんのせかいこどものせかい』による)
しっくりいく:よく合う