NHKは去年12月、東京大学の関谷直也教授の研究室と共同で、輪島市・珠洲市・穴水町・能登町の奥能登地域に建てられた仮設住宅の入居者を対象にアンケートを行い、297人から回答を得ました。
この中で、将来への不安をどの程度、感じているか聞いたところ、
▽「とても感じる」が48%、
▽「やや感じる」が36%、
▽「どちらともいえない」が9%、
▽「あまり感じない」が3%などと全体の84%が将来への不安を感じているという結果となりました。
そのうえで、今後の心配ごとについて複数回答で聞いたところ、
▽「再び地震・津波が起きること」が68%、
▽「住む場所の確保」が53%、
▽「自分や家族の健康」が50%、
▽「地域の復興」が45%、
▽「地域のつながりが失われる」が36%、
▽「自分や家族の精神状態」が30%となり、今後の災害に不安を抱く回答が多くなりました。
将来住みたい場所については、
▽「被災前に住んでいた場所」が48%と最も多く、
▽被災前と「同じ地区」が19%、「同じ市や町」が11%で、
合わせて78%が地元で暮らし続けたいと希望し、半年前の調査と比較するとおよそ5ポイント増加しました。
このほか、
▽「県内の別の自治体でもかまわない」が6%、
▽「県外でもかまわない」が2%で、
▽「まだ具体的には考えられない」は7%となりました。
また、現在、どのような情報を必要としているかを複数回答で聞いたところ、
▽「住宅再建の支援制度」が58%と最も多く、
▽「今後の奥能登地域の復興の見通し」と「生活再建のための支援情報」が53%、
▽「インフラ復旧の情報」が18%、
▽「商業施設の再開の情報」が17%、
▽「医療・介護サービスの情報」が15%などと、住宅や生活再建の支援と、復興の見通しについての情報を求める声が多く寄せられました。
一方、能登半島地震での初動対応の課題について複数回答で聞いたところ、
▽「被害状況の把握が遅かった」が51%、
▽「県や市・町が何をやっているかわからなかった」が50%、
▽「被害想定が不十分だった」と「避難所のあり方」が45%、
▽「インフラ復旧が遅かった」が44%、
▽「孤立集落への支援が遅かった」が23%、
▽「広域避難の方針」が21%、
▽「ボランティア派遣が遅かった」が15%などとなりました。
自由記述で珠洲市の60代の女性は「住む地域のほとんどの家が解体されている。町が失なわれていると感じ、今後、住民はどこに住むことになるのか、どんな生活になっていくのか不安だ」と記しています。
東京大学の関谷直也教授は「復旧と復興がなぜ進んでいないのかが住民に伝わっていないのが大きな課題だ。自治体などが住民に対し、復興の見通しや今後の地域の方向性についてより積極的にコミュニケーションをとっていくことが必要だ」と指摘しています。
“地震と豪雨災害 事業継続が非常に厳しく”
アンケートに回答した石川県輪島市の橋本喜隆さん(78)は、将来への不安を強く感じているといいます。
橋本さんは40年以上、輪島市内を軽トラックで回る移動販売の仕事をしていて、5年ほど前からは近くにスーパーがなかったり体が不自由だったりして買い物に行くことができない高齢者世帯に生鮮食品などを届けてきました。
しかし、1年前の地震で自宅が全壊したほか、近くの作業場にあった売り上げを管理するパソコンや冷蔵庫も壊れてしまいました。
当時を振り返り橋本さんは「呆然として何もやる気がなくなりました。大げさかもしれないですが、生きているのが嫌になりました」と話していました。
息子の住む金沢市に5か月間、避難していましたが、地域に残る顧客のために6月に仕事を再開しました。
こうした中で9月に奥能登地域を豪雨災害が襲いました。
この影響で地域に残っていた顧客の数は大きく減少したということで、事業の継続は非常に厳しくなっています。
橋本さんは「地震と豪雨でお客さんが半分ほどに減りました。売り上げも半分になり、生活も一変しました。やめようかなと思いました」と話していました。
それでも橋本さんはアンケートで「被災前に住んでいた場所に暮らしたい」と回答しました。
橋本さんは「私を待っているばあちゃんたちがいるのでね。あんたの魚を頼りにしていると言われるとうれしくなりました。少しくらいつらくても頑張ろうかという気持ちになります。このままで終わりたくないですね」と話していました。
専門家「復興の1丁目1番地は生活再建」
アンケートで全体の84%が「将来への不安を感じる」と回答したことについて、災害社会学が専門の東京大学の関谷直也教授は「復興の1丁目1番地は被災した方々個人の生活再建だ。災害から1年が経過する中、地域や生活をどうしていくかに目がいくはずだが、そうなっていないことが特徴であり課題だ」と指摘しました。
そのうえで「復旧復興が進んでいないのは物理的な工事や地理的な状況もありやむをえないところがあると思うが、なぜそうなっているのか住民に伝わっていないのが大きな課題で、自治体などが住民に対し、復興の見通しや今後の地域の方向性についてより積極的にコミュニケーションをとっていくことが必要だ」と話しています。