トランプ氏の大統領就任でアメリカ経済への影響は…。
専門家に聞きました。
NYダウ平均株価 2025年最初の取引は下落
ニューヨーク株式市場は2日、ことし最初の取り引きが始まりました。
この日、発表された失業保険の新規の申請件数が市場予想を下回り、労働市場は堅調だという受け止めが出て、朝方、ダウ平均株価は大幅に値上がりしました。
ただ、その後、電気自動車メーカー、テスラの販売不振や、IT大手アップルのスマホが中国で値下げされるという情報が伝わったことなどで、一時、360ドルを超える値下がりとなりました。
終値は、昨年末と比べて151ドル95セント安い、4万2392ドル27セントでした。
これで先月下旬から4営業日連続での値下がりとなりました。
金融市場では1月20日に大統領に就任するトランプ氏が打ち出す減税策や規制緩和への期待感が高まっています。
一方、関税の引き上げなどが経済に与える影響について懸念する声も出ています。
市場関係者は「トランプ新政権が中国などに対して実際に追加関税を課せばアメリカでモノの価格が値上がりし、インフレの再加速につながる可能性もある。生成AIの開発による『AIブーム』が続くかどうかも株価の動向を左右するだろう」と話していました。
トランプ氏が掲げる経済政策は
アメリカの大統領選挙で勝利したトランプ氏は、前の政権の際に法人税率の引き下げなどを柱とする税制改革の法律を成立させましたが、選挙戦ではこうした減税策の期限を撤廃し恒久的な制度にすることを掲げてきました。
さらに、アメリカ国内で製品を生産する企業については法人税率を現在の21%から15%に下げることを目指す考えも示しています。
また、成長産業への支援では、AI=人工知能の安全性に関する新たな基準を設けることなどを盛り込んだバイデン氏の大統領令は、技術革新の妨げになるとして廃止するなど、ITや金融などさまざまな分野で規制緩和を進める考えも示していました。
また、トランプ氏は政府支出の削減策を検討する組織、DOGE=“政府効率化省”を率いるトップに実業家のイーロン・マスク氏を起用。
連邦政府による規制を減らすことで官僚機構全体における大規模な人員の削減を目指す構えです。
一方、トランプ氏は、選挙戦で「私にとって辞書の中で最も美しいことばは関税だ」と述べ、アメリカ国内の製造業や労働者の雇用を守るためだとしてさまざまな追加関税を導入する考えを繰り返し表明してきました。
そして、去年11月にはメキシコやカナダからの犯罪や薬物の流入が止まるまで両国からのすべての製品に25%の関税を課すことや、中国の製品にも10%の追加関税を課す考えを示し、就任前から関税を交渉のカードにして他国に対応を迫る姿勢を鮮明にしてきました。
仮に3つの国すべてに関税をかけた場合のアメリカ経済への影響を大和総研が試算しています。
それによりますとアメリカの実質GDP=国内総生産が1.06%低下し、インフレ率が1.56%押し上げられるとしています。
ロゴフ教授「関税引き上げ 世界的な協調の欠如の始まり」
国際経済分野の権威として知られるハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、ことしのアメリカ経済の見通しについて「トランプ氏が大統領に就任して2025年より先を予測するのは気が進まないものの、たくさんの悪いことが起きると考えるが、今、あしもとの経済は非常に良好だ」と述べました。
そのうえで、ロゴフ教授は「最も大きなリスクはトランプ氏が関税の引き上げを決意しているように見えることだ。これによってアメリカは保護主義的な大国であるインドやブラジルのような国になり、それは衝撃的だ。そして(相手国による)報復関税もあるだろう。これは大きな不確実性の『源』だ。関税そのものだけでなく『関税戦争』の始まりであり、世界的な協調の欠如の始まりでもある。この問題は深刻で、関税がもたらす直接的な影響だけでなく、アメリカにインフレをもたらす」と述べてインフレが再加速するおそれがあると警告しました。
また、「トランプ氏が掲げてきた政策を実行するのがいかに難しいか、彼がどれほど気まぐれかという現実が明らかになれば、アメリカの株価の上昇傾向が続くかは不透明だ」と指摘しました。
アメリカのFRB=連邦準備制度理事会による利下げの見通しについて、ロゴフ氏はトランプ次期大統領の関税政策によってインフレ圧力がかかるとしたうえで「FRBが政策金利をこれからさらに2.5%引き下げるというのは夢物語だと思う。現時点ではFRBは政策金利を高止まりさせることになるだろう」と述べました。
一方、日本経済についてロゴフ氏は「トランプ次期大統領のもとで不確実性が高まるが、インフレ圧力があることは明らかだ。物価上昇を安定させるためには日銀はあと数回、政策金利を引き上げなければならないだろう。ただ、利上げをすれば年金基金や保険会社、銀行などで金利上昇による損失が発生する可能性がある。このため日銀は利上げに慎重になりたいと考えてきたが後れをとるべきではない」と述べました。
ラジャン教授「減税で財政赤字拡大 インフレさらに進む可能性」
インドの中央銀行のトップを務めた、シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授は、ことしのアメリカ経済について「今は3%の成長と本当に好調だ。あいにくこの状況をさらによくするというのは困難だ。どのような政策を実施しても状況が悪化するリスクが高くなってしまう。今後、経済状況を現状で維持できたとしても、それはすばらしいパフォーマンスだ」と述べました。
そのうえで、トランプ次期大統領が掲げた政策については「法人税の引き下げを含む減税や輸入品に対する関税の引き上げ、さらには労働力の供給源となってきた移民に対する規制といった政策パッケージを合わせた場合、インフレがさらに進む可能性があり、FRB=連邦準備制度理事会の任務はより難しくなるだろう」と述べました。
このうち減税については「財政赤字が拡大し、赤字を抑制できるという感覚がないままほかの政策よりもインフレ率が高くなる可能性がある」としたほか、移民の強制送還については「就労許可のない移民について話せば建設業やレストラン業、ホテル、家事サービス、造園業などにとって重要な労働力の源だ。もし、移民が入ってこなければ労働需給がひっ迫することを意味し、需要が強いとインフレ圧力がかかる」と指摘しました。
また、株価の動向についてラジャン教授は「市場はAIに明らかに多くのことを期待しているが、テクノロジーが広く使われるようになるまで時間がかかる可能性があり、株価にとってリスクになる。テクノロジーの普及度に対する失望が最大のリスクとなりうる」と述べました。
そして、日本経済については「日本はデフレから脱却しつつありインフレが定着しはじめている。ただ、日本はまだ海外の需要に依存していて、各地で関税が引き上げられた場合、日本の製品が中国のものに取って代わるようなメリットもあるかもしれないが、その規模は比較的小さく、日本企業の輸出にも影響を及ぼすだろう」と述べました。