JLPT N1 – Reading Exercise 12

#239

いまの男性の主張はまだ自己表現とは思わない。やっと「表現とは」というスタートラインに立ったところではないか。

表現はコミュニケーションを目的とする。表現が求められるようになった最大の背景は、日本という共同体や家族的な社会という共同体が崩壊したことだろう。年功序列や終身雇用が大前提という共通の文化があれば意思疎通は簡単で、その規範に従っていれば目立つ必要もなかった。

だが_______ が失われたいま、あらゆる人間関係で高度なコミュニケーション体力が求められる。演劇でも、文化の異なる人が集まる欧州でも、意思疎通を目的とするワークショップが盛んだ。共通の文化がないなかで、「いいことは黙っていても伝わる」と考えるのは、残念ながら思い込みでしかない。

メッセージをより効果的に伝える手段として、政治家や大企業の社長に発声や魅力的な笑い方などを指導する演出家がつくことは、欧米でもよくある。内容は重視するのに表現のための方法論は非常に軽視してきた日本とは、大きく異なる。

しかし、内容は同じでも間の取り方や声の高さ、大きさなどで、うまい人と下手な人の差は明らか。落語がいい例だ。聞くほうも、内容より話し方や振る舞いといった方法論に説得されることがある。手法の重要性にやっと目が向き始めたということだろう。

Vocabulary (53)
Try It Out!
1
本文の _______ に入る最も適当なものはどれか。
1. 自己表現
2. 意思疎通
3. 共通認識
4. 自国文化
2
残念ながら思い込みでしかない」とあるが、どういう意味か。
1. 残念なことだが、単なる思い込みである。
2. 残念だと思う必要はまったくない。
3. 残念なことだが、誰もそう思わない。
4. 残念だと思わなくもない。
3
筆者の考えに一番近いものはどれか。
1. コミュニケーションの能力はどんな時代においても大事にされている。
2. 日本は自己表現において、もっと方法論を重視すべきだ。
3. 日本社会は共同体が続いているため、意思疎通に大きな問題はない。
4. 表現の内容が同じなら、話し方や振る舞いなどで影響されることはない。