JLPT N1 – Reading Exercise 31

#258

人に従順な飼い犬は、もともとオオカミの仲間を飼い馴らしたものである。
(中略)
ところが、「人間がオオカミを飼い馴らした」という話には謎が多い。犬が人間と暮らすようになったのは、15000年ほど前の旧石器時代のことであると推測されている。当時の人類にとって、肉食獣は恐るべき敵であった。そんな恐ろしい肉食獣を飼い馴らすという発想を当時の人類が持ち得たのだろうか。しかも犬を飼うということは、犬にエサをやらなければならない。わずかな食糧で暮らしていた人類に、犬を飼うほどの余裕があったのだろうか。また当時の人類は犬がいなくても、狩りをすることができた。犬を必要とする理由はなかったのである。
最近の研究では、人間が犬を必要としたのではなく、犬の方から人間を求めて寄り添ってきたと考えられている。犬の祖先となったとされる弱いオオカミたちは、群れの中での順位が低く、食べ物も十分ではない。そこで、人間に近づき、食べ残しをあさるようになったのではないかと考えられているのである。弱いオオカミだけでは、狩りをすることができないが、人間の手助けをすることはできる。
そして、やがて人間と犬とが共に狩りをするようになったと推察されている。こう考えると、当時、自然界の中で強い存在となりつつあった人間に寄り添うことは、犬にとって得なことが多かった。つまり、人間が犬を利用したのではなく、犬が人間を利用したかもしれないのである。
(稲垣栄洋『弱者の戦略』による)

Try It Out!
1
謎が多いとあるが、謎に合うのはどれか。
1. 犬ではなくオオカミを飼おうとしたこと
2. オオカミを肉食獣だと思わなかったこと
3. 恐ろしいオオカミを飼って利用しようと考えたこと
4. 狩りの邪魔になるのに恐ろしいオオカミを飼おうとしたこと
2
筆者によると、どのようなオオカミが犬の祖先だと考えられるか。
1. 人間から頼りにされたオオカミ
2. 狩りの上手なオオカミ
3. 群れから追い出されたオオカミ
4. 群れの中で下位のオオカミ
3
犬の祖先が人間と暮らすようになったきっかけについて、筆者はどのように考えているか。
1. 人間を利用して仲間からの危険を避けようとした。
2. 人間に近づいて食糧を得ようとした。
3. 人間が狩りの手助けをさせた。
4. 人間がエサを与えた。