JLPT N1 – Reading Exercise 34

#261

暮らしの中で身近な木といえば、街路樹と公園の樹木、そして住宅の庭の木あたりでしょうか。いずれも毎日目にはしているものの。あらためて意識することは少ないと思います。でも、例えばこれがすべて枯れてしまったとしたらどうでしょう。なんとも寂しく、無味乾燥な、あるいは何か病気を連想させるようなイメージのまちになってしまうのではないでしょうか。また、昨今は、維持管理の面などから街路樹を植えないまちなどもあるようですが、一見近代的、未来都市的なイメージもしますが、うるおいややすらぎのないまちのようにも見えます。このようにまちの樹木は、実はとても大きな役割を持っています。では、この木々たちは、ただ植えるだけ、存在するだけでいいのでしょうか。そうではありません。そこに意味や意義がなければならないのです。わかりやすく言うと、街路樹の樹種を何にするかというようなことです。その土地の植生を踏まえ、その上に歴史性や未来性を重ね合わせる。季節の移ろいの中で、人々がその木をどのように眺めながら暮らしていくのか。そんな積み重ねの上にはじめて「ここにはこの木を植えよう」ということになる。「1」それがその木がその場所に存在する意義です。
住宅の庭木も同じです。単に自分の好みばかりでなく、その木が住宅街の小路をどのように演出するのか、まわりとの調和はどうなのか。そんなことを考えていくのがまちづくりの中の「木」です。昨今のガーデニングブームで、確かに個々の家の庭は立派になりました。花や木の種類もずいぶん増えて、ひと昔前には無かったような色や形も見られます。
そして、ガーデニングをする人達の情報交流も盛んとなり、新たなコミュニティも生まれているようです。しかし、いま一つ自分の土地から外に広がっていない感じがします。道路や公園は地域にとっての共有の庭であり、個々の部分と共有の部分が美しくなってこそはじめて全体が美しくなるのです。美しく楽しい庭を作っている人々には、「2」もっと欲張って美しく楽しいまちを作ってほしいと思います。
「愛でる」という言葉があります。これは主に植物に対して使われます。満開の桜や初夏の新緑、真夏の木陰や秋の紅葉・・・。私たちは折々に木々を眺め、そこに日々の暮らしを重ね合わせたり、育ちゆく木々に子供達の明るい未来を願ったりしているのではないでしょうか。そしてそんな思いをこめて水やりや手入れをする。これが「愛でる」ということだと思うのです。その愛でる心と愛でられる木々があってはじめてよいまちとなるのです。
(加藤美浩『まちづくりのススメ』による)

Try It Out!
1
筆者によると、まちの樹木の大きな役割とは何か。
1. 人々に木が身近な存在であることを意識させる。
2. 人々に未来都市的なイメージを与える。
3. 人々を現実の煩わしさから逃れさせる。
4. 人々を落ち着いた気持ちにさせる。
2
「1」それとはどういうことか。
1. その土地に暮らす人々の好みに合わせた樹木を植えること
2. その土地の特性と人々の暮らしを考慮し、樹木を植えること
3. その土地の歴史的な樹木を大切にし、保存すること
4. その土地の季節の移ろいを感じさせる樹木を大切にすること
3
「2」もっと欲張ってとあるが、筆者の気持ちと合うものはどれか。
1. 自分の好みだけではなく、まち全体との調和も考えてほしい。
2. ガーデニングをする人達同士で、もっと情報交換をしてほしい。
3. 個々の庭の花や木が、さらに美しく育つようにしてほしい。
4. 個々の庭よりも、まちの共有の部分のほうに力を入れてほしい。
4
筆者の考えに合うのはどれか。
1. 人々がまちの木々を愛でることで、子供達が自然に関心を持つようになる。
2. 人々がまちの木々を愛でることが、よいまちづくりにつながる。
3. 人々がまちの木々の手入れを怠らなければ、よいまちになる。
4. 人々が季節による木々の変化に関心を持つことで、愛でる心が生まれる。