「1」僕はかたよっている。何がかというと、たとえば映画が観たいと思うと何本も立て続けて見る。観るのではなく、見るというのがふさわしい。本も読む時間がなくてイライラしてくると、バカ買いして本を眺めている。読むのではなく、眺めている。友達と会いたいと思うと、何人にも電話をする。会ってる時間がないのに約束しようとする。肉を食べ過ぎていると思ったら半年食べなかった。白菜がうまいと思ったら毎日食べてたときもある。車が運転したくなって夜中に河口湖周辺まで行った。なぜか僕はかたよっていて、ちょうどいい感じということを知らない気がする。つくづくバランスが悪いと思う。
「___2___」最近ひとつだけうれしく思ったことがある。かたよってるからこそいまの自分があると痛感したのだ。確かに音楽の仕事にしろ、小説を書くことにしろ、偏向した性格でなければ続かなかった。しかしそれよりも、いつまでも壊れてしまったがらくたを捨てられないでいる自分が急に好きになったのだ。捨てずに置いてあるものが残っていたことがうれしかったのではない。捨てられないでいる自分の心が好きになったのである。
僕の胸の中に壊れてしまったハ-トがある。それを抱えたまま生きている。捨ててしまった方が荷物は軽くなるのに、いつまでも抱えている。
壊れたハ-トでこれからも歩いていく。
(須藤晃「みんなノイズを聴きたがる」によるによる)