A
生態系保全では、そこに生息する生物のことを考慮するが、生態系を構成するすべての生物を等しく扱うことはできない。なぜなら、一部の生物を守ろうとすると、必ず不利益を被る生物が生じるからである。すなわち、われわれ人間が何をしても、それによって利益を得る生物と不利益を受けるものが生じることになる。そうなると、生態系
を保全する目的で、何らかの活動をするということは、一部の生物種に利益を与えるということになる。
(中略)
唯一われわれが言えることは、われわれが人類であるから、「地球生態系は人類が健全に生きていくためにある」ということである。すなわち、「生態系は人類のため」なのである。言い換えれば、人類に利益を与えてくれる生態系を保全すべきなのである。
(花里孝幸『自然はそんなにヤワじやない一誤解だらけの生態系』による)
B
保全生物学の核となる概念である生物多様性は種の存続によって維持される。した
がって、保全生物学では、希少種や減少過程にある個体群の保全に関する知識と方法が一つの重要な課題である。
(中略)
しかし、個別の種をそれぞれ保護することは非常に困難である。一つの生態系をとっても、微生物から植物、昆虫、哺乳動物など多くの種が生存しているが、それらの全ての生態を把握して保護することは不可能に近い。さらに、未分類の種や種レベル以下の遺伝的多様性は、個別の種を保護する方法では逆に保護されなくなってしまう恐れがある。そこで、多様な生物の相互関係を含む自然をそのまま保全することが重要になってくる。つまり、生態系を保全することで、そこに含まれる全ての生物を保護するという考えている。