JLPT N1 – Reading Exercise 53

#280

私には、ひとをほめるクセがある。「ひと」というのは、芸術家諸君のことだ。これは、私の心がひろいからではなく、せまいからである。どうしても、ほめられない相手もあるが、少しでも美点を発見するように努力すれば、たいがいはほめられる。たとえひとを傷つけても、正しい見解を主張するのが、批評の厳格さであろうが、なかなか「1」この原則が守れない。守れないというのは、私の心が狭い、弱いからであろう。やっつけやろうと、攻撃だけを心がけるのも、実に狭いやり方であるが、万事ホドホドに、あたりさわりのないようにというのも、「2」よくないと思う。私は時によると、かつて自分の作品を非難した仲問の作品に対して、ことさら甘い点をつけることがある。これは、

自分をやっつけた相手に対しても、寛大な態度を示したい、つまり自分の心のひろさを証明したいためであり、結局は心のひろさではなくて、心のせまさを暴露していることになる。

(武田察淳「武冊泰淳全集第16巻己による)

あたりさわりのないように:無難に

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1
「1」この原則とは筆者のどのような態度を指すか。
1. 芸術作品の批評をする時、少しでも美点を見つけようと努力する態度。
2. 芸術作品の価値を見極めるため、批評を行う際の厳しさを失わない態度。
3. 芸術作品の批評をする時、作品だけでなく芸術家を決して傷つけない態度。
4. 芸術作品の真の価値にかかわらず、常に厳しい批評や主張で攻撃する態度。
2
「2」よくないと思うとあるが、筆者は何がよくないと思っているか。
1. 厳密な評価ではなく、甘めの評価を示すこと。
2. 批判されたことがある相手の作品を攻撃すること。
3. 批評において、常に正しいと思う見解を伝えること。
4. 厳しい評価によって、自分の能力の高さを証明すること。