JLPT N2 – Reading Exercise 33

#166

今の若い人は、ある程度完備した科学社会に生まれている。携帯電話もカーナビも当たり前になった社会である。発展の過程を見ていない彼らは、どういった原理でそれらが機能しているのかを知らない。知らなくても、その恩恵を受けることができる。充電さえしていれば、誰とでもいつでも連絡がつくと信じている。電波がどんなもので、どのような設備によって成り立っているのかを知らない人が多い。十数メートルしか離れていない場所なのに、携帯電話が通じなくなることがあるなんて、考えてもいないだろう。

こういった「科学離れ」については、昔から問題意識はあった。だから、子供たち向けに科学を教育するシステムをいろいろな形で模索してきた。けれども、僕が感じることが一つある。そういう教育をしているのは、科学が好きな人たちだ。だから、口を揃えてこう言う、「科学の楽しさを子供たちに知ってもらいたい」と。この言葉を聞くたびに、「楽しさ」を押しつけている姿勢を感じずにはいられない。読書の楽しみを知ってもらいたい。スポーツの楽しさを感じてもらいたい。ほかの分野でも、こういった姿勢は根強い。しかし、科学の場合は、そんな悠長な問題ではない、と思うのだ。読書やスポーツが嫌いな人は、それをしなくても良いだろう。楽しみは、ほかにいくらでもある。しかし、科学を避けることは、この現代に生きていくうえではほとんど無理なのである。(中略)もはや、好きとか嫌いで片づけられるものではない、ということだ。

(森博嗣『科学的とはどういう意味か』による)

Vocabulary (38)
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1
筆者は、今の若者をどのように見ているか。
1. 科学が発展した社会に生まれたので、携帯電話などの機器のない不便さを知らない。
2. 科学社会で育っていても、携帯電話などの機器の原理を知らないで使っている。
3. 科学の発展過程を知らないため、携帯電話などの機器の進歩が実感できない。
4. 科学に関心がないので、携帯電話などの機器を十分に活用していない。
2
僕が感じることが一つあるとあるが、何を感じているのか。
1. 科学が好きな人たちだけが、科学の楽しさを教えられるわけではない。
2. 「科学離れ」を防ぐには、科学の楽しさを教えることが大切だ。
3. 科学の楽しさは、子供が簡単に理解できるものではない。
4. 科学教育は、科学の楽しさばかりを強調している。
3
筆者の考えに合っているのはどれか。
1. 現代は科学とかかわらずに生きていくことはできない。
2. 現代は科学を無理に好きになる必要はない。
3. 科学が読書やスポーツより楽しくないのは当然だ。
4. これからは科学嫌いをなくさなければならない。