妻の掃除と整理の仕方、これはもう極端に偏執的である。たとえば自分の好きなところはピカピカ光るほど磨き上げるが、興味のないところは何年もほこりが積み放しになっている。家の中のある部分は精神質なくらい整然と物が並び、だれかが彼女の留守にほんの一ミリほど品物を動かしてもすぐに気づいてしまう。そのかわり、いつも手のつけようもないほどむちゃくちゃにものが突っ込んであるところが家の中に一、二ヶ所は必ずある。 妻のもののしまい方は普通の世間並みとは大分違う。普通の人なら大概たんすにしまう品が食器棚に入っていたり、流しの棚にあるはずのものが冷蔵庫にしまってあったりする。探す以上一応我々の常識と因襲を全部脱ぎ棄てて、白紙にかえって探さねばならぬが、そんなことは容易にできることではない。次に、彼女の物の置き方、並べ方はことごとく彼女の抱いている美の法則によって支配されているので、実用上の便宜というものは_______ 。どんな不便を忍んでも彼女は自分の美を守り通そうとする。ときにわたしが抗議を申し込んでみてもとうていむだである。