JLPT N1 – Reading Exercise 50

#277

類人猿の四足歩行と人間の二足歩行を比べると、時速四キロメートルくらいの速度で歩くと、二足歩行のほうがエネルギー効率がいい。しかも長く歩けば歩くほどエネルギーの節約率が高くなる。すなわち、初期の人類は長い距離をゆっくりした速度で歩く必要性に迫られて、直立二足歩行を採用したと考えられるのだ。これは初期の人類が徐々に熱帯雨林を出ようとしていたこととぴったり符合する。熱帯雨林の外では果実が散在していて、広い範囲を探し回る必要がある。これを可能にする歩行様式として、二足で歩くことが有利になった可能性がある。

しかし、長距離を歩くことになると群れの全員がまとまって移動するのは困難になる。子供や身重の女性、老人など速い速度で長距離を歩くことが難しい仲間がいる。そのため、体力のある男たちが少数のグループを組み、広く歩き回って食物を集め、それを女や子供たちのもとへ持ち帰って一緒に食べたのではないかと思われるのだ。これが食物共有仮説である。だが、サバンナへ出たサルたちは二足にならなかった。なぜ人間だけがなかったのか。それは、サバンナへ出たパタスザルやアヌビスヒヒ、マントヒヒたちはオスがメスより格段に大きくなり、長い犬歯を発達させて群れの防御をするようになったからである。しかも胃腸の強い彼らは人類ほど広い範囲を歩き回って食物を探す必要はなかった。一方、人類の祖先は男が大きくなるところか、性差が小さく、犬歯も縮小して武器としては使えなくなっている。これは人類の男たちが捕食動物と戦うよりも、その目を避けながら食物を探し歩いていたことを物語っている。

(朝倉敏夫編『火と食』による)

Try It Out!
1
筆者によると、人類が二足歩行を採用したのはなぜか。
1. 広い範囲を長く歩き続けられるから。
2. 広い範囲を時間をかけずに移動できるから。
3. 遠くまで見渡しながら歩けるから。
4. 必要に応じて速度を変えながら歩けるから。
2
群れの行動は、二足歩行によってどのように変化したと考えられるか。
1. 移動が困難な者がグループを組み、ゆっくり食物を探し歩くようになった。
2. 移動が困難な者を体力のある者が助けながら、共に食物を探しようになった。
3. 体力のある者のグループができ、その中で食物を共有するようになった。
4. 体力のある者のグレープができ、移動が困難な者に食物を分け与えるようになった。
3
人類の祖先について、筆者の考えに合うのはどれか。
1. 男たちが身体をより大きく見せて群れを防御していた。
2. 男たちが捕食動物との遭遇を避けながら食物を探し回っていた。
3. 男たちが捕食動物からできるだけ遠くへ逃げて身を守っていた。
4. 男たちが武器を持って群れを防御しながら食物を探し回っていた。