克服することが難しい障壁があるときに、当初の目標の達成を断念して、その代りに、もとの目標と類似した他の目標を達成することによって、要求の充足をはかることを代償行動という。テニスが雨のためできなくなるとピンポンをしたり、A社に入社できなかった学生が、それと同じ系統のB社に入社して満足するようなものである。A子との恋が実らなかったので、A子にどことなく似たところのあるB子と親しくなったというのも同じである。以上のようなときBはAに対して「1」代償価をもつという。BがAに比べて達成するのが非常に容易であったり、価値的に低いものであれば、Bを達成してもAに対する代償にはならない。BがAに類似し、Bを得ることの困難度が、Aを得ることの困難度よりも大きいか、違いがないときに代償価は大となる。つまり「___2___」気持ちになるのである。
しかし代償行動はいつでも生ずるものではない。当初の目標を指向する要求が強く切実な場合には代償行動による満足は生じがたい。ただの遊び相手ならそれを失ってもほかのものにようて代償満足が得られても、真剣な恋の場合にはほかの人では代えられないのである。「3」ほかの人で代わりになるような関係であれば、本当に好きとはいえないのである。
(詫摩武俊『好きと嫌いの心理学』講談社による)