以下は、ある映画監督が書いた文章である。
勝負を続けている限りは、負けは確定しない。勝ったり負けたりしながら、人生は続いていく。ただ、勝負を続けていくうちにだんだん勝負勘はついてくるし、くだらない失敗はしなくなってくる。スキルが上がってくるからだ。
映画の話で言えば、僕は映画制作のシステムそのものに、大負けをしない仕掛けを組み込んだ。それは、「1」「他人と仕事する」ということだ。他人という客観性を映画制作の現場に持ち込めば、独りよがりな作品に突っ走ることを彼らが防いでくれる。それに僕は優秀なやっとしか組まないから、僕一人で何も考えるずっと映画の質は高くなるのだ。
勝負を続けていると、思わぬ成果が飛び込んでくることがある。かって負けたと思い込んでいた勝負に、後になって勝ってしまうことがあるのだ。僕の例で言えば、愚直に映画を撮り続けて、ある程度の評価を得るうちに、かってボロクソに言われた作品に光が当たり、再評価されるようなこともある。
(中略)
だから「2」絶対に勝負を諦めてはいけない。ただし、常勝を狙うのは禁物だ。勝負をしなければ勝つことはできないが、必ず勝とう、絶対に失敗しないようにしようと意気込んだら、緊張感や気負いや、そんな余計なものを背負い込んで結果的に負けてします。
(押井守『凡人として生きるということ』による)