JLPT N1 – Reading Exercise 66

#293

人称代名詞われ(私)の複数は

われわれ(私たち)だと通常考えられている。多くの場合それでいいのだし、実際にもそういうふうに使われている。けれども、われわれ

がいつでも必ずわれの複数といえるかとなると、そうとばかりはいえないだろう。自分を含んだ複数の人間をひとまとめにしてわれわれというとき、ことわるまでもなくそのわれわれのなかで自分と他の人々とは、なんらかの意味で親和的な間柄にある。たとえばグル-プ、学校、会社、党派、家、国など、性格や規模こそちがえ、一つの同じ集団に属していて、心の、あるいは利害の上で互いに結びついていることが前提になっているわけだ。しかしこの場合、自分と他の人々とは、それぞれの集団の外部に対しては同一の集団に属するものとして結びつきをもっているにしても、それぞれの集団内部を考えてみれば、「1」自分と他の人々との間柄が対立を含んでいないとはいえない。自分によって近い集団から遠い集団へ、自分を含む小さいな集団から大きな集団へという方向で、一般的には集団内部の自他の対立は大きいが、たとえ小さな身近な集団のなかでも自他の対立はなくなるわけではない。それどころか、ときには近親憎悪と呼ばれるような、近い間柄であることがかえって激しい憎しみを相互に惹き起こすことさえあるのだ。このようなわけで、集団内部の自他の対立を問題にし出すと、「2」われわれということは簡単にはいえなくなる。もっといえば、ありえないことになる。つまり、「___3___」、そこにあるのはつねにただ自己と他者たちだ、ということになるのである。

(中村雄二郎「哲学の現在」による)

Try It Out!
1
「1」自分と他の人々との間柄が対立を含んでいないとはいえないという筆者の考えから言えることはどれか。
1. 他の集団に属する人間とは、親和的な間柄になることは難しい。
2. 同じ利害で結びついていない人間同士には、対立関係が生じやすい。
3. 身近な関係以外の人間には、激しい憎しみを持たないとはいえない。
4. 同一の集団にいる身近な人間との間でも、親和的になるとは限らない。
2
「2」われわれということは簡単にはいえなくなるのはなぜか。
1. 一つの集団の中で、心や利害の上で互いに結びついているという関係はあまりないから
2. 一つの集団の中で、複数の人間が互いに憎しみを持っているということは考えられないから
3. どんなに共通点の多い集団でも、その構成員が全く同じ考えを持つことは許されていないから
4. どんなに共通点の多い集団でも、複数の人間が全く同じ考えを持っていることはありえないから
3
「___3___」に入る最も適当な文はどれか。
1. われには複数はない
2. われは単純ではない
3. われはわれわれと同義である
4. われとわれわれは対立している