地震や豪雨で被災した石川県内の道路では、重機が通れずに除雪が難しくなっている箇所が輪島市で40を超えるなど、複数あることが分かりました。
本格的な雪の時期を前に、各自治体は道路の復旧を急いでいますが、住民の生活に影響が出るおそれもあり、対応を検討しています。
NHKが取材したところ、重機による除雪作業が難しくなっているのは、輪島市が管理する道路の40を超える箇所、珠洲市が管理する生活道路の15の箇所です。また、穴水町では、除雪作業を担う路線のうちおよそ140路線で重機による除雪作業が難しくなっている箇所があるということです。
このうち輪島市では、ことし1月の地震だけでなく9月の豪雨災害で土砂崩れが相次ぎ、住民が利用する頻度が高い生活道路でも今も土砂が残っていたり、応急復旧で設置された土のうで道幅が狭くなったりして、除雪用の重機の通行が難しい箇所が多くなっています。
住民の生活に影響が出るおそれもあり、輪島市は復旧作業を続けていますが、多くの箇所では雪が降りやすい時期となる12月中旬までの復旧が間に合わない可能性が高いということです。
このため雪が積もった際には、車が通行できるように道路上の雪を踏み固めるなどの応急対応をとるということです。
また、重機による除雪ができる道路でも途中に通行できない箇所がある場合はう回させる必要があり、除雪作業を終えるまでに大幅に時間がかかる可能性があるということです。
輪島市土木課の延命公丈課長は「除雪作業が難しい箇所でもできるだけ雪を取り除き車が通行できるようにしないといけない。今後の状況を踏まえ対応を検討したい」と話していました。
石川県内の被災地ではこのほかにも除雪作業が難しくなっている道路があるとみられ、本格的な雪の時期を前にして対応が課題となっています。
路面舗装工事 急ピッチで進めるも完了の見通し立たず
1月の能登半島地震や9月の豪雨災害で、奥能登地域では道路が陥没したりマンホールが浮き上がったりする被害が相次ぎました。
珠洲市の建設会社では、重機を使った除雪作業ができるように路面を舗装する工事を急ピッチで進めています。
地震の影響で道路が隆起した場所では、除雪作業を進めると重機に付いている除雪用の「ハイド板」と呼ばれる板があたるおそれがあり、事故にもつながる危険があるといいます。
会社によりますと、これまでに1000箇所以上で修繕する工事を行ったということです。
それでも工事が必要な箇所が多く、本格的な雪の時期となる12月中旬までにすべてを完了できる見通しは立たないといいます。
建設会社「林舗道」の用平定光工事部長は「能登半島地震の影響でマンホールなどが隆起している現場が多い。復旧工事がなかなか追いつかないような状態で、急ピッチで進めています」と話していました。
人手不足で除雪体制の維持難しく
除雪作業を担う土木会社も、地震で被災した従業員が退職するなど人手が足りなくなっていて、除雪体制の維持が難しいという声が出ています。
輪島市町野町にある従業員26人が働く土木会社では、石川県と輪島市、それに珠洲市から県道や市道の除雪作業を委託されています。
この会社では、本格的な冬を前に能登半島地震の影響で人手不足に直面しています。特に人手の確保が難しいのは「除雪オペレーター」で、重機を使って住民が利用する頻度が高い生活道路などの除雪作業を行います。
道路の近くには側溝があったり傾斜が大きい箇所があったりするので、重機での除雪作業には危険が伴います。このため「除雪オペレーター」には熟練した技術や経験が必要で育成にも時間がかかると言われます。
この土木会社では昨シーズンは「除雪オペレーター」が14人いましたが、ベテランの2人が能登半島地震で自宅が全壊したため退職しました。会社では、ハローワークに求人票を出していますが、オペレーターの経験がある人からの応募はない状況が続いています。
このため、この冬は、重機の操作や会社が担当する地域での除雪作業に慣れていない従業員2人にオペレーターとして対応してもらうことにしていますが、除雪作業には例年より大幅に時間がかかるとみています。
「刀祢建設」の刀祢光広工事部長は「地震のあと退職したのは30年近くのベテランの除雪オペレーターで、後継者もなかなか育っていない状態で困っています。この冬に一気に雪が1メートルくらい積もると、除雪に時間がかかり地域の人たちに迷惑がかかってしまうと思う」と話していました。
住民の間で大雪に備え重機の講習会
除雪作業をめぐる課題が相次ぐ中、能登半島地震と豪雨で二重に被災した輪島市町野町の住民の間では大雪に備える動きが出てきています。
先月17日には除雪などに使う重機の操作方法を学ぶ講習会が開かれ、地元の住民など20人が参加しました。
地元に住む30代の女性は「仕事場がガソリンスタンドなので、雪かきに使えたらいいかなと思い参加しました。もしなにかあったときに力になれたらと思います」と話していました。
仮設住宅で新たに自治会立ち上げも
さらに能登半島地震の被災者が暮らす町野町の仮設住宅では、新たに自治会を立ち上げたケースもあります。
豪雨で集落が孤立した際に仮設住宅で暮らす人の数がわからず支援物資の配布がスムーズにできなかった経験から、住民どうしが協力して大雪などに備える必要があると考えました。
この自治会では大雪による孤立に備え、コメや即席麺、飲料水などの2日分の食料品だけでなく停電の時に使うことができる発電機やストーブなども用意しました。
それでもこの仮設住宅には高齢者が多く、大雪による孤立が長期化すると体調を崩す住民が出ると懸念しています。
町野町第1団地の池端道彦自治会長は「雪によって停電が起きると暖が取れないことを今一番心配している。今後、除雪や寒さの対策についてどう対応していくか、行政にも相談しながら自治会としても取り組んでいきたい」と話しています。
専門家「例年以上に大雪で集落が孤立するリスク高く」
大雪による災害に詳しい長岡技術科学大学の上村靖司教授は、ことし1月の地震と9月の豪雨災害で被災した奥能登地域では例年以上に大雪で集落が孤立するリスクが高くなっていると指摘しています。
孤立のリスクについて上村教授は「すでに斜面が崩れてしまった場所は雪が積もると非常に崩れやすい、いわゆるなだれが起きやすい状況になっている。なだれが起きてしまうと道路がふさがれて通ることができなくなるおそれがあり、数日間の孤立が起こりうることは想定しておいた方が安全だ」と話しています。
そのうえで上村教授は、大雪による孤立を防ぐために本格的な雪の時期を前に対策を徹底する必要があり、行政には丁寧な情報の発信と早めの対応が求められていると指摘しています。
上村教授は「被災地の自治体にとっても今まで経験したことのないような状況で迎える冬になる。どういうタイミングで除雪するのか、あるいは除雪できない見込みであるとか、できるかぎりの情報を住民に伝えていただきたい」と話していました。